長期化が避けられないウクライナ戦争? エマニュエル・トッド著「西洋の敗北」を読んで

エマニュエル・トッド「西洋の敗北」keiryusai.net 書評
エマニュエル・トッド「西洋の敗北」keiryusai.net

 エマニュエル・トッド著、大野舞訳「西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか」(文藝春秋)をやっと読了しました。初版が2024年11月10日。慌てて、図書館で予約したら、356番目。結局、手元に届いたのが予約して1年半も経った2026年5月のことでした。どういうわけか、日々忙しかったのか、読書に集中出来ず、2週間経っても、4分の1ぐらいしか読めず、期限が来たので返却しました。

 仕方がないので、ちょっと高いな、と思いつつ、2860円も出して購入し、これまた1カ月以上掛けて読破することが出来ました。有り体に言えば、「人間には2種類しかいない。トッドの『西洋の敗北』を読破した人間と、出来なかった人間の2種類だ」てな感じでしょうか(笑)。

「盛者必衰」の米国

 私にとってはかなり難解な書物でした。トッド氏は、本文の中で「この本は、思想家としてではなく、歴史家として書いている」と何度も強調しているように、世界各国の家族制度(長子相続制など)や平均余命や乳幼児死亡率などを細かいデータを引用して、「歴史的事実」を淡々と叙述している感じです。「ソ連邦の崩壊」を予言した著者の相変わらずの「手法」です。まあ、面目躍如といった感じです。

 「西洋の敗北」の「西洋」とは、勿論、米国も含まれています。むしろ、この本では、アメリカの「盛者必衰」の事実を細かいデータを掲げて証明することに多くのページを割いています。トランプ米大統領が大々的に掲げている「MAGA=Make America Great Again」キャンペーン自体が、「もう米国は衰退してしまったから、かつての栄光をもう一度取り戻そう」と米国の没落を認めているようなものですからね。

 どれくらい酷い状況なのか? ロシア等とも比較して数字を挙げています。

・2000年から2017年のプーチン政権時代、アルコール中毒による死亡率は、人口10万人当たり25.6人から8.4人に減少、自殺率は39.1人から13.8人に、殺人率も28.2人から6.2人に減少。

 ・2022年、ロシアの殺人率はさらに低下し4.7人に減少。自殺率は2021年に10.7人となり、4分の1近く減少、2000年の乳幼児し能率は、1000人当たり19人だったが、2020年には4.4人にまで減少し、米国の5.4人の数字を下回った。

 ・高学歴人口において、エンジニアリングを専攻する学生の比率は、2020年頃の米国は7.2%だったのに対し、ロシアは23.4%と高かった。(日本は18.5%、ドイツは24.2%、フランス14.1%)→米国は、ウクライナに供給する砲弾でさえ米国内で生産出来ていない!

 ・米国では2000年以降、特に45歳から54歳の白人男性の死亡率が上昇、原因はアルコール中毒、自殺、オピオイド中毒など。平均余命は2014年に78.8歳だったのが、2020年に77.3歳に低下、その1年後の2021年は76.3歳となった。同年の英国人は80.7歳、ドイツ人80.9歳、フランス人82.3歳、スウェーデン人83.2歳、日本人は84.5歳だ。ロシア人は2002年の時点で65.1歳でしかなかったが、プーチン政権下で2020年は71.3歳と6歳も上昇した。

 ・乳幼児死亡率は、2020年頃(ユニセフ)、新生児1000人当たり、米国は5.4人に対して、ロシアは4.4人、英国3.6人、フランス3.5人、ドイツ3.1人、イタリア2.5人、日本は1.8人だった。

 ・刑務所への収監率は2019年、米国は住民10万人当たり531人だったが、ロシアは300人、英国143人、仏107人、独67人、日本34人だった。米国は世界で最も高い収監率だ。

 ・米国は肥満大国で、2017年から2020年にかけて、体重過多の人口比率は30.5%から41.9%に増加。

・1928年、米国の工業生産高は世界の44.8%を占めていたが、2019年は16.9%に激減。同時期、英国は9.3%から1.8%に減少、ドイツは11.6%から5.3%に減少、フランスは7%から1.9%に減少。日本は2.4%から7.8%に増加した。中国は2020年に28.7%まで増加、ロシアは世界15位で、1%程度だ。

 ・「工業の中の工業」と言われる2018年の工作機械の生産高は、中国が24.8%、ドイツ語圏(独、墺、スイス)は21.1%、日本は15.6%、イタリア7.8%、米国はわずか6.6%しかない。

 ・今日、米国の学生でエンジニアリングを専攻する者はわずか7.2%だ。つまり、社会の内部で「頭脳流出」が起きた。流出先は、法学部、金融学部、ビジネススクールなど、エンジニアリングや科学研究よりも高額の収入が得られる可能性のある分野だ。

  ま、ざっとこんな感じで、キリがないのでこの辺でやめておきますが、米国は、再び偉大な栄光を探し求める「二流国」に堕落してしまっている現状を喝破した感じです。つまり、漫画のセリフじゃありませんが、「西洋よ、お前は既に死んでいる」ということになるかも知れません。

 ということは、泥沼化したウクライナ戦争は5年目に入り、トッド氏が「予言」するように長期化は避けられないことを証明してしまっています。トッド氏は、将来、米国が最も恐れている「欧州一の大国」ドイツとロシアが接近し、ロシアの勝利を確信しているようですが、まだまだ一波乱も二波乱もありそうです。

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