「日本は国際インテリジェンス活動をどう展開すべきか」 第71回諜報研究会

第71回諜報研究会 keiryusai.net 歴史
第71回諜報研究会 keiryusai.net

 第71回諜報研究会(インテリジェンス研究所主催)が6月6日(土)、東京・早稲田大学で開催され、私も参加して来ました。前回第70回のセミナーが開催されたのが、昨年12月でしたから、実に半年ぶりの開催です。待ちに待った開催だったのか、今回は驚くほどの人が参加しておりました。会場には、女子高校生らしき人の姿もあり、30人近くも参加し、オンライン参加を含めると100人ぐらい参加したというのです。私も長年、同会に参加しておりますが、これほど多くの人が参加されたのは初めてではないでしょうか。いつぞや、関係者を除くと3人ぐらいしか会場参加しなかった会もありましたからね(苦笑)。

 今回も2人の報告者が登壇しましたが、共通テーマは「日本は国際インテリジェンス活動をどう展開すべきか」でした。現在、審議が進んでいる国家情報会議の問題点や、戦後最悪とも言われる対中、対露関係などタイムリーでホットな話題のため多くの人の関心を惹いたものだと思われます。

 しかも、報告者は、昨年「世界を変えたスパイたち」(朝日新書)を上梓した国際ジャーナリストで元共同通信ワシントン支局長の春名幹男氏とゾルゲ事件にも造詣が深い元時事通信モスクワ支局長の名越健郎・拓大客員教授という私から見れば「大御所の大先輩」ですから、是非とも話を聴いてみたいという人が多かったのだと思います。ついでながら、今回司会を務めた岸俊光氏(元毎日新聞論説委員、アジア調査会常務理事)は「内調 内閣情報機構に見る日本型インテリジェンス」(ちくま新書)など内閣調査室関係の書籍を多く出版されている専門家で、これ以上ないメンバーが揃ったという感じでした。

春名幹男氏「国家情報会議法案が抱える問題点」

 最初に登壇した春名幹男氏のテーマは「国家情報会議法案が抱える問題点」でした。春名氏が最大の問題点として挙げたことは、米CIAなどに倣って、日本の情報機関を刷新・統合するために高市早苗首相肝いりで「国家情報会議」が設置されましたが、その議長は総理大臣、議員は閣僚8人が務めることが決められたことでした。春名氏によると、現役の政治家で行政機関のトップが情報機関のトップを兼ねることは先進国ではあり得ないというのです。情報が政治に左右されるからです。最も肝心なことは、情報の真偽を分析する分析官の養成です。米CIAの場合、分析官の殆どが博士号取得者だというのに、日本の場合、博士号取得者はあまりいないというのです。

春名幹男氏「国家情報会議設置案」
春名幹男氏「国家情報会議設置案」

 もう一つは、国家情報会議と国家安全保障会議(NSC)の構成員とはほぼ同じ顔ぶれであり、これも先進国ではあり得ない。外交・安全保障を決定するNSCのような政策部門と情報部門とは明確に区別しなければ、公正な判断が出来ない恐れがあるからだといいます。

 さらには、「実践部隊」となる国家情報局は、内調を発展的解消し700人ぐらいの規模になると言われますが、法案では他の主要情報機関(防衛省情報本部、法務省公安調査部、外務省国際情報統括官組織)について全く触れていないことが懸念材料だといいます。連携するのか、吸収合併するのか、それともこのまま独立して活動するのか不明だというのです。

 米国の国家情報長官室が管轄する18の諜報機関全体で、職員の合計は10万人以上とされているので、700人で何が出来るのかと思ってしまいますね。

名越健郎氏「日本外務省、対露対中情報戦略の失敗」

  次に登壇した名越健郎氏のテーマは「日本外務省、対露対中情報戦略の失敗」でした。

 名越氏が一貫して主張していたことは「冷戦期、首相官邸は外交や安保を外務省に丸投げしたため、外務省は、族議員のいない外交を独占し、対中、対露外交は失敗し続けてきた。外交・情報権限は、官邸と選挙で選ばれた政治家に移行するべきではないか」ということでした。

 かつては、外務省のキャリア官僚の合格者は年間18人でしたが、35人に増やし、現在の外交官を6000人から8000人に増やす計画だというのです。この5年間で309万人も人口減少している日本で、これはあり得ないというのです。米国務省は、外交機能していない世界の領事館等を閉鎖している最中で、名古屋の米領事館もその中に含まれているというのに、日本は、在留邦人さえいない中東やアフリカ諸国にも大使館・領事館を置いているというのです。有り余った外交官の「ポスト割り当て」が見え見えですねえ。しかも、大使ともなれば、年収3000万円、退職金8000万円にもなるといいます。高! これ国民の税金ですよね? 大使は、駐在中は殆どお金を使うことはありませんから、帰国したら、都内超一等地のタワマンでも現金で買うのかしら?

 名越氏は、日本の外務省による外交の最大の失敗の一つとして、1992年3月のロシアのゴズイレフ外相による秘密提案を挙げていました。北方四島のうち、①歯舞、色丹を返還し②国後、択捉の帰属については並行協議するーというものでしたが、四島返還に固執する外務省は無視し、官邸にも伝えなかったというのです。

名越健郎氏「日本外務省、対露対中情報戦略の失敗」
名越健郎氏「日本外務省、対露対中情報戦略の失敗」

 当時の日本のGDPは、ロシアの52倍もあり、ロシアは前年にソ連邦が崩壊して不安定な過渡期で、喉から手が出るほどお金が欲しかった時期でした。「たら」「れば」の話ではありますが、あの時、交渉していたら今とは全く違った展開になっていたはずでした。権力を強固にしたプーチン政権ではもう領土返還の道筋すら途切れてしまいましたからね。

 対中外交については、1992年、橋本恕(ひろし)駐中国大使と外務省の谷野作太郎アジア局長が天皇訪中を主導するに当たり、自民党を懐柔したり、天皇訪中に否定的だった共同通信に圧力をかけたりした事案を名越氏は取り上げていました。この天皇訪中により、1989年の天安門事件の際にG7で行っていた対中制裁が解除され、中国は国際社会に復帰出来たといいます。果たして天皇訪中は正しかったのか? 中国は日本の協力で大国化の道を歩むことが出来たというのに、名越氏は「中国は日本に感謝していない」と言います。

 中国の故事に「井戸を掘った人のことを忘れない」とありますが、どうしたことやら。あれからの中国は、軍拡、覇権主義の道に突き進んでいます。

 私も今回、話を聴いて、外務省の外交特権は維持しつつも、ちゃんと情報は官邸にあげて、最終的には国民の選んだ政治家の判断を尊重するべきだと思いました。我々は間違った政治家は選挙で落とすことが出来ても、外務官僚は罷免出来ないからです。

 いずれにせよ、いくら箱ものを作っても、つまり国家情報局を作っても、情報の真偽を鑑定して為政者に伝える優秀な分析官の養成が必要だという春名氏の見解にも大いに賛同しました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました