映画「急に具合が悪くなる」は★★★★

映画「急に具合が悪くなる」keiryusai.net 雑感
映画「急に具合が悪くなる」keiryusai.net

 仏カンヌ国際映画祭で日本人が主演女優賞を受賞して話題になった濱口竜介監督作品「急に具合が悪くなる」をロードショー公開初日(6月19日)に観て来ました。上映時間が3時間16分、事前の宣伝予告編などを入れると3時間半もの長時間に渡りましたから、はっきり言って、「長過ぎる」というのが率直な感想でした。とは言え、2時間ぐらいは映画の世界の中に没頭し、とてつもない感動を得たことは告白しておきます。

 末期がんを患らう日本人演出家と、パリ郊外の老人介護施設で運営に四苦八苦している施設長を務めるフランス人との間の「魂の交流」というかなり重いテーマです(原作は、哲学者宮野真生子氏と人類学者磯野真穂氏による往復書簡をまとめた同名の書籍)。

 私が最も注目したことは、濱口監督特有と言えば特有の手法で、フィクションではなくドキュメンタリータッチに描いているので、俳優がとても演技をしているようには見えなかったことでした。皆、実に自然で、認知症を患った老人はそう見えたし、介護士たちも看護婦長もそのものに見えたことでした。たった一人だけ、演技をしているように見えたのは清宮吾朗役の長塚京三でした。彼一人だけが、この映画に出演している多くの俳優の中で、我々がよく知っているせいもありましたが、役の清宮吾朗は演劇俳優なので、わざとらしく演技することが彼の役どころだったのかもしれません。彼は学生時代にパリに留学した経験があるので、フランス語はお手のものといった感じでした。

 特に、主演女優賞を同時受賞した施設長マリー=ルー役のヴィルジニー・エフィラと舞台演出家森崎真理役の岡本多緒も違和感なく役どころに成り切って、見事に演じていました。マリー=ルーは、文化人類学を学ぶために日本の大学に留学した経験があり、日本語がペラペラ。森崎真理は、ソルボンヌ大学の哲学科を出たのでフランス語がペラペラという設定になっていたので、二人とも長い「外国語」を話す場面が多くありましたが、これも難なくこなしていて感銘しました。

 二人とも20代後半から30代後半に見えましたが、実年齢が結構いっていたので驚きました。女優という仕事のせいでしょうが、オーラが出るような美しさを保つ秘訣を知りたくなりました(笑)。

 この映画は、はっきり言って楽しめるエンターテインメントではなく、社会の矛盾や不平等や差別を深く考えさせられる大人のインテリ層向けです。海外の国際映画祭の賞で高く評価されている濱口監督の力量によるものかもしれませんが、こういう難しい映画に何らかの形で賞を与えたカンヌ映画祭の審査員も大したものだと思いました。

 この映画は、日本、フランス、ベルギー、ドイツとの国際共同製作になっていましたが、エンディングロールを見たら、何十人、何百人という台詞のない多くの出演者やスタッフの名前が出てきて魂消てしまいました。映画は「縁の下の力持ち」によって支えられているということを再認識しました。

 偉そうなことを言えば、あと30分カットして短くしていたら、私のこの映画の評価は満点★★★★★でした。

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