世紀の駄作か?文学史に残る寓話か? 村上春樹著「夏帆」

村上春樹著「夏帆」(新潮社) 書評
村上春樹著「夏帆」(新潮社)

 村上春樹の最新作「夏帆」(新潮社、2026年7月3日初版)を読了しました。実は、半分ぐらい読み進めたところ、「何だ!これでは、エロ・グロ・ナンセンスではないか!こんなのがノーベル文学賞に値するのかえ〜?」と腹が立って、途中で放り投げようかと思いました。

 考えてみれば、私はもう25年以上昔にノンフィクション・オンリーに転向したため、小説(フィクション)を読むのは実に久しぶりです。その「作法」を忘れてしまっておりました。所詮、と言っては身も蓋もありませんが、小説は作家の作り物ですし、細かい事実関係や史実との整合性に拘っていてはキリがありませんし、腹なんか立ててはいけなかったのです。

 日々の空疎で無意味な日常から逃れ、そして忘れさせてくれるエンターテインメントの要素が小説には多く含まれています。たとえそれが、作者の「誇大妄想」だと言われようが。

 まあ、この小説は一種のファンタジー(寓話)として読むべきで、母親の不倫疑惑(エロ)も、殺人事件(グロ)も、ブラジルから来たありくい夫婦やシロアリ女王など(ナンセンス)も、一種のメタファーとして甘んじて受け入れるべきなのでしょうね。(小説を読む作法として)

 タイトルの夏帆とは、イラストレーター兼絵本作家である若い独身女性の名前です。主な舞台は東京・中央線の武蔵境と、夏帆の実家である埼玉県の浦和です。父親が浦和で小児科医院を開業しているという設定になっています。

 私は思わず笑ってしまいました。いずれも良く知っている、というか、恐らく作者の村上春樹さんより数百倍以上「土地勘」があるからです(笑)。理由は書きませんが。

 そんな個人的に身近な土地を、「世界のハルキ」さんが小説の舞台として選んでくださるなんて、大変光栄に思いました(笑)。

 まだこの小説を読んでいない方にはタネを明かしてしまうようですが、話は夢と現実と空想と妄想が行ったり来たりします。殺人かと思ったら、一滴も血が出ない紛い物行為だったということで、メデタシ、メデタシで終わります。349頁もある長編ですが、一気に読ませてしまう作家の力量は、相変わらずながら、圧倒的でした。「エロ・グロ・ナンセンス」では終わらせない謎解きの物語にもなっています。

 でも、80歳近くになってもこういう小説を書かなければならない作家さんという商売も因果なもんで、大変なんだなあ、と同情してしまいました。

 僭越ながら、大変失礼ながら、ですが。

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