今年2025年のNHK大河ドラマは、江戸時代の版元蔦屋重三郎を主人公にした「べらぼう」です。視聴率で苦戦しているようですが、何とか1年頑張ってほしいものです。
大河ドラマは、出版界にとって「柳の下にいつもドジョウはいない」ではなく、「柳の下にドジョウが2匹も3匹もいる」またとないチャンスです。関連本が相次いで出版されます。
本屋さんに行ったら、やはり、蔦屋重三郎関係の本が何冊も何冊も棚に平積みになっていました。それらをパラパラ立ち読みして比べてみたら、一番内容が充実して読みやすかったのが「歴史人」2月号(ABCアーク)だったので早速購入して来ました。
写楽の版元
蔦屋重三郎といえば、私が最初に彼の名前を知ったのは、あの奇抜な東洲斎写楽の役者絵を売り出した出版社の編集者(版元)としてです。もう半世紀ぐらい昔ですが。
でも、この本を通読して驚いたのは、彼の人脈の広さと多彩さです。浮世絵師は勿論のこと、山東京伝ら戯作者、大田南畝(四方赤良)ら狂歌師、平賀源内ら文人学者にまで及んでいたのです。
本居宣長にまで接触
一番驚いたことは、「古事記」の注釈書「古事記伝」などを世に出して国学者として名を馳せた本居宣長をわざわざ伊勢松坂にまで訪ねて、随筆「玉勝間」などの江戸での販売を許可してもらったりしたことです。当時の蔦屋重三郎は、寛政の改革で、風俗紊乱など出版統制令に引っ掛かって財産没収(半減)されたばかりです。黄表紙(絵入り読み物。世相、風俗など風刺)、洒落本(遊郭の話)などの娯楽本を扱う地本問屋(じほんとんや)から学術書などを扱う書物問屋の株を購入して参入し、起死回生を図っていたのでした。
転んでもタダでは起きない蔦重のバイタリティーにはほとほと感心しました。そのせいか、江戸文化人として歴史の教科書に載っている殆どの人物が蔦屋重三郎と関係しています。せっかくですので、その一部をご紹介します。
蔦重と江戸文化人
【浮世絵師】喜多川歌麿、東洲斎写楽、勝川春朗(後の葛飾北斎)、鳥居清長、酒井抱一ら
【狂歌師】四方赤良(大田南畝=幕臣)、朱楽菅江(あけら・かんこう、山崎景貫=与力、「故混馬鹿集」撰者)、宿屋飯盛(石川雅望=国学者、宿屋)、平秩東作(へづつ・とうさく、立松懐之=煙草屋)、そして蔦唐丸(本人)ら。
【文人・学者】山東京伝(浮世絵師北尾政演)、朋誠堂喜三二(ほうせいどう・きさんじ、秋田佐竹藩江戸留守居役平沢常富)、曲亭馬琴、十返舎一九、恋川春町(狂歌名酒上不埒、駿河小島藩重臣)、平賀源内、本居宣長ら
現在も残る須原屋
蔦屋重三郎が創業した書肆「耕書堂」は幕末の四代目で廃業しましたが、蔦屋のライバルだった須原屋茂兵衛の流れを汲むといわれる書店「須原屋」は、現在も埼玉県の浦和にあります。
浮世絵師・北尾政演(まさのぶ、戯作者山東京伝の絵師名)や北尾政美(まさよし、鍬形恵斎)らの師匠に当たる北尾派の開祖北尾重政は、書肆「須原屋」(三郎兵衛)の子息だということをこの本で知りました。
江戸の文化サークルは、武士、町人の垣根がなく、お互いに知り合った結構狭い範囲の中で、しのぎを削り合っていたんですね。
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