ブライアン・グリーン著、青木薫訳「時間の終わりまで」(ブルーバックス)の再読を完了しました。やはり、凄い本でした。今度またいつか、3度目の読書に挑戦したいと思いました。
宇宙論を始め、量子論、哲学、宗教学、心理学など色んなことが書かれていますが、タイトルになっている通り「時間の終わり」について書かれています。具体的な箇所を引用すると以下の通りです。
恒星であれブラックホールであれ、惑星であれ人間であれ、分子であれ原子であれ、物体はすべて、いずれ必ず崩壊する。どれぐらい長持ちするかは、ものによってさまざまだ、しかし、人はみな死ぬということと、人類という種はいずれ絶滅するということ、そして少なくともこの宇宙においては、生命と心はほぼ確実に死に絶えるということは、長い目で見て、物理法則からごく自然に引き出される予想なのである。宇宙の歴史の中で唯一目新しいのは、われわれがそれに気づいていることだ。
ブライアン・グリーン著、青木薫訳「時間の終わりまで」533~544ページ
まあ、これが本書の結論めいた話となるでしょう。しかし、はっきり言って、これでは身も蓋もありません。普通の人なら、アパシー(無感動)になるか虚無主義(ニヒリズム)に陥るか、はたまたパニックになるしかありません。
「焚書坑儒」の対象か?
「焚書坑儒」の秦の始皇帝なら、この本を発禁処分としたことでしょう。人民がこれを読んでしまったら、右往左往してしまい、統治の邪魔になります。いわゆる「書いてはいけない」、例え真実だとしても、「言ってはいけない」類いの本だからです。
でも、実際に真実なのです。別に著者のグリーン氏が独自理論として唱えたわけではありません。最新の理論物理学が突き止めた「学説」を読者に提供しているだけです。
これを読んだ大衆がパニックにならないのは、「その時間」があまりにも身近に感じられないからです。いずれブラックホールまで消滅して宇宙までも崩壊しますが、その前に生命がなくなるのは、10の50乗年以内、つまり、ビッグバンから今日まで経過した時間の、10億の10億倍の10億倍の10億倍の長さ、と言われてもピンと来ないでしょう。太陽が消滅するのは今から50億年後と言われ、その前に地球の地表温度は数千度になるので、ほぼ確実に人類はその前に絶滅していることになりますが、現生人類のホモ・サピエンスが誕生したのはわずか30万年前程度、話し言葉は約3万年前に生まれ、文字が生まれたのは約1万年前と言われていますから、人類滅亡までは想像もつかない時間の長さがあります。
しかし、著者のグリーン氏は、「われわれは儚い存在だ。ほんのつかの間、ここにあるだけの存在なのだ」と断言しています。
ブライアン・グリーン著、青木薫訳「時間の終わりまで」555ページ
芸術活動が救いなのか?
その一方で、著者は、物語をつくったり、絵を描いたり、像を彫刻したり、音楽をつくったりする芸術活動は、人類が生き残る可能性を高める役割を果たしているかもしれない、といった私見も述べています。個人的には、芸術鑑賞が趣味なので、この言葉は救われました。
この他、以前の記事と少し重複しますが、著者が引用していた、偉人たちが音楽に関して発言した「語録」を掲載して、この記事の締めとしておきます。
・「音楽とは、心が行う隠された算術的計算なのですが、心は自分が計算しているということに気づいていないのです」(ゴットフリート・ライプニッツ)216ページ
・「私はめったに言葉で考えない。私はしばしば音楽で考える」(アルベルト・アインシュタイン)283ページ
・「音楽のない人生など何かの間違いだ」(フリードリヒ・ニーチェ)387ページ
・「…バッハの『シャコンヌ』は崇高の権化だ。ベートーヴェンの第九交響曲のフィナーレに置かれた『喜びの歌』は、人間という種に与えられた最も楽天的な言明のひとつだろう。…ジュディー・ガーランドのシンプルでこの上なく美しい『虹の彼方に』は、若者の純粋な憧れを捉えている。ジョン・レノンの『イマジン』はわれわれに何ができるかを思い描く素朴な力そのものだ」(ブライアン・グリーン)411ページ
・「音楽にはありふれた活動に霊的な熱を吹き込み、儚いものに永遠の翼を与える力がある」(パブロ・カザルス)421ページ
とても、励まされる言葉ばかりです。「芸術は長く人生は短し」ですか。。。
下の記事は、この本を再読し始めた時のものです。ご参照ください。
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