今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」の影響で平安時代が脚光を浴びています。主人公が紫式部なので、「源氏物語」や、紫式部のライバルと言われた清少納言の「枕草子」も注目され、関連番組といいますか、便乗番組も結構放送されています。
摂関政治の頂点と栄華を極めた藤原道長の時代です。この時代、武力による大きな戦乱がなかった代わりに、熾烈な権力闘争があったことで知られています。中宮定子がいる一条天皇に無理やりに娘彰子を入内させた道長は、一条天皇の歓心を買うために紫式部に「源氏物語」を書かせたというのが通説になっています。つまり、道長は武力の代わりに文化を政治に使ったのです。
同じように、中宮定子の中臈の女房だった清少納言も「枕草子」を書くことによって、定子の復権と伝説になるよう意図的に華やかな後宮生活ばかり強調します。道長のライバルだった藤原伊周らも「枕草子」を政治的に利用します。
「源氏物語」も「枕草子」も1000年以上も昔に書かれた作品です。世界で最も古い長編小説と随筆と言われていますから、世界に誇るべき日本文化です。昔は印刷技術がなかったので、何百年にも渡って書写によって読み継がれてきました。つまり、「読み、書き」のリテラシーが日本文化の伝統として代々受け継げられてきたとも言えます。
先日、「英雄たちの選択」という歴史番組(「清少納言 枕草子の真実」)を見ていましたら、歴史学者の磯田道史氏が「小説、随筆、書評、論説など散文は社会のインフラになった。読まれる散文を持つ文化は社会の最大の未来のインフラになるという印象を強く持った」といった趣旨の発言をしておりました。今最も発言力のある歴史学者だけに、「鋭い指摘されるなあ」と私も感心致しました。
深刻な読書離れ
ただし、今年9月に文化庁が発表した2023年度の「国語に関する世論調査」(2008年度から5年ごとに行われ、全国16歳以上の6000人を対象。23年度の有効回答率は59.3%)によると、1カ月に1冊も本を読まない人が62.6%と6割を超え、日本人の惨憺たる読書離れの現状が明らかになりました。せっかくの「読み、書き」の伝統的インフラが衰退していることになります。
これで、人類が劣化したと断定できないかもしれません。恐らく、若い人を中心に、情報収集の仕方が活字を読むよりも、テレビやYouTubeやティックトックなどの動画を見る方が多くなったからです。
しかし、人類の想像力が衰えたということは確実です。私が若い頃は、散文を読んで色々妄想を膨らませたことがあります(笑)。また、特にレコードで聴いていた洋楽もジャケット写真だけですから、そのバンドメンバーがどんな楽器で演奏し、誰がヴォーカルを担当しているのか想像するしかありませんでした。ラジオを聴いても、今ほど情報がありませんから、DJがどんな顔をしているのか声だけで想像したりしました。
今はYouTubeで居ながらにして簡単に動画が見られますが、私は若い人たちが羨ましいとは思いません。レコードジャケットしかなかった時代でも色々と想像して楽しめたからです。
恐らく読書離れは今後、ますます深刻になることでしょう。本の書き手も生活できませんから減少し、ユーチューバーに転向していくのかもしれません。ブログだって、散文の典型ですから今後、面倒臭くて読まれなくなるでしょう。そうなれば廃業です。
便利さだけを追求して進歩してきた人類ですから、この流れは誰も止められないことでしょう。
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