柏原光太郎著「東京いい店 はやる店」を読み始めました

柏原光太郎著「東京いい店 はやる店」(新潮新書) 書評
柏原光太郎著「東京いい店 はやる店」(新潮新書)

物足りないなあ

 先日、久しぶりに有楽町の大型書店に行って、本を何冊か買い込んで来ました。やはり、「リアル店舗」は良いですね。会計の際、お店の人に「つぶさないで続けてくださいね」と御願いしておきました。今は、その時購入した本の中の一冊、柏原光太郎著「東京いい店 はやる店」(新潮新書、2024年6月20日初版)を読み始めています。

 著者の柏原氏は、「東京いい店 うまい店」(文藝春秋)の編集長を務め、現在は日本ガストロノミー協会の会長。文春出身なのに、何でライバルの新潮社から本を出すのか不思議でしたが、まあ、堅いことは抜きにして、大いに期待して読み始めたのです。

 でも、ちょっとガッカリしましたね。この本の宣伝コピーに「当代きっての美食家が、現代日本の外食グルメの歴史を自身の体験と共に記す」とあり、確かに、ミュシュランの星が付く多くの名店が紹介されておりますが、そういったお店の歴史紹介の面で深みがないのです。例えば、日本のフランス料理史の中で28ページにこんなことが書かれています。

そして1872年、築地に日本で初めての西洋料理店「築地精養軒」が出来たことにより、西洋の食文化が東京に広まりました。築地精養軒は、外国の貴賓の接待場所として使われたため、以後、政府や皇室主催の晩餐会はフランス料理主体になったのです。

柏原光太郎著「東京いい店 はやる店」

 これだけです。築地精養軒には西郷隆盛や岩倉具視らも食事をしたとか、築地精養軒は上野に移転して現在も「上野精養軒」として営業し、元の築地の敷地にはその後、銀座東急ホテルが建てられ、現在、時事通信社の本社ビルがある、といったことを追加してくれれば深みを増すと思いました。

 また、イタリア料理の中で、36ページに「壁の穴」のことが書かれています。

(和風スパゲティ専門店「壁の穴」は)1953年に開業しましたが、「たらこスパゲティ」や「納豆スパゲッティ」など日本の食材と醤油などを使った独自のメニューが評判を呼び、「和風スパゲティの元祖」として複数の店舗を展開しました。

柏原光太郎著「東京いい店 はやる店」

  私はこの記述だけでは不満ですね。そもそも「壁の穴」という店はどういう経緯で創業したのか?その歴史の方に興味があるからです。「壁の穴」は、CIA(米中央情報局)の初代東京支局長を務めたポール・ブルーム(1898~1981年)の執事兼コックを務めていた成松隆康(1925~2012年)が1953年、執事を退職した際にブルームらから高額な資金提供をしてもらい、東京・新橋に日本初のパスタ専門店を開業したのですから(春名幹男著「秘密のファイル―CIAの対日工作」)、かなりいわくつきのお店です。

 もう一つ、日本の中国料理を紹介する中で、40ページにこんなことが書かれています。

60代以上の日本人なら覚えているでしょう、「リンリンランラン留園」のCMで有名な「留園」が開店したのは1960年で、同じ頃「四川飯店」「中国飯店」といった大型中国料理店が西新橋周辺に出来ました。

柏原光太郎著「東京いい店 はやる店」

 うーん、これももう少し踏み込んでほしいなあ、と思いました。留園は、汪兆銘政権を擁立した影佐機関を支援した盛一族が亡命して創業した由緒ある名店だったからです。影佐機関を率いた影佐禎昭陸軍中将(1893~1948年)に関しては、1冊の本になるぐらい昭和史に欠かせない人物であり、元自民党総裁の谷垣偵一氏は影佐の孫に当たります。また、留園を開業した盛毓度(せい・いくたく)は、清朝末期の政治家で実業家の盛宣懐(せい・せんかい、1844~1916年)の孫に当たります。

 勿論、本書では有名レストランや著名なシェフの名前が事細かく書かれているので、店の歴史や沿革に触れることはないと主張する人もいるかもしれませんが、私自身はどうも物足りないなあ、と思いながら読んでいるのです。

 なお、この本を読了した記事は以下の通りです。

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