先日、山梨県の山中湖別荘に招待してくださったS氏は、大変不思議な方でした。何と言っても、現代人必須のスマホを持っていないのです。自宅にも別荘にもテレビはない。新聞も数年前に購読をやめてしまった。ーかろうじて、ニュースはラヂオで聴くぐらいだというのです。
それでいて、ウクライナもガザもカムチャッカ地震も、現代の最先端のニュースは何でも知っています。「地獄耳」といったら失礼なので、「天国耳」なのです。
一方の私といえば、操觚者を自称しておりますから、毎日、新聞を隅から隅まで時間を掛けて読み、ニュースは定時にテレビやラジオでチェックし、さらにはスマホでネットニュースを見たりして怠りありません。まさに、情報過多です。それなのに、今では現場に出ていないので、報道されたニュースの背後にある本質を見抜けずに右往左往したりしています。
S氏とはえらい違いです。彼は泰然自若でドシリと構えて、まるで竹林の賢人か仙人のようです。とはいっても決して浮世離れしているわけではなく、別荘の近くに住むチェリストやピアニストらと交際し、山中湖交流プラザきららで開催されるコンサートに足を運んだりしています。
S氏がニュースの本質を突くことができるのは、半端じゃない読書量のせいかもしれません。ある時、こんなことを言うのです。
欧米諸国は隠れてロシアの濃縮ウランを輸入
「欧米諸国が束になって、ロシアに経済制裁し、ロシアからエネルギーを輸入しているインドに対して、トランプ大統領が50%の関税を掛けようとしたりしても、ロシアはビクともしませんよ。何よりも、原発に必要な濃縮ウラン能力を、ロシアは世界の44%も保有しており(注1)、米国も英国もフランスもカナダも何処の国も、隠れてロシアの濃縮ウランを買っているんですよ。どこも報道していないようですが…。だから、ロシアは戦費が枯渇しないんです。欧米諸国が協力しているようなもんですよ」
へ~、S氏より遥かに大量のニュースに触れているはずの私でさえ知らなかった話でした。
富士演習場は米軍が年間の3分の2使用
S氏の山中湖別荘滞在時、時折、「ド~ン」という音が遠くで聴こえて来ました。日中とはいえ、私が「花火ですか?」と聞くと、S氏は「いや、あれは陸上自衛隊の富士演習場ですよ。自衛隊とはいっても、年間の3分の2は米軍が演習で使っています(注2)。日本人のほとんどが知らないと思いますよ」と、「日米同盟」を金科玉条の如く信奉する右翼の皆さんが聞いたら怒りだしそうなことを姿勢を正して開陳するのです。
私はS氏の意見に同感です。私も日米地位協定の在り方に大いに疑問を感じています。有事の際、米国による核の抑止力についてもさらなる議論が必要だと考えています。日本国内には米軍基地であふれ、東京には横田基地があるため、首都圏上空の管制権は米軍が優先的に利用できるようになっています(注3)。
今年は戦後80年の節目の年です。「核武装が安上がり」と主張して当選した参政党の議員がこの世に現れたことだけでも驚きましたが(注4)、やはり、戦争の悲惨さを知らない世代が大半を占めるようになった戦後80年という節目を感じます。
たまには真偽不明のSNS情報は遮断して、S氏のように、たった一人で、平和の大切さを痛感しながら、沈思黙考したいと思っています。
(注1)笹川平和財団「ロシアによる原子力市場支配への挑戦」
(注2)防衛研究所・小山高司「北富士演習場をめぐる動き」
(注3)毎日新聞2024年4月10日「特権を問う 在日米軍、首都圏の飛行実態が判明」
(注4)朝日新聞2025年7月18日「参政党候補のさや氏『核武装は安上がり』 入党前には徴兵制に言及」
コメント