バッハの無伴奏チェロ組曲が頭の中で聴こえて来た「ミロ展」

ジュアン・ミロ「FCバルセロナ創部75周年」ポスター(1974年) 雑感
ジュアン・ミロ「FCバルセロナ創部75周年」ポスター(1974年)

 「7月6日で終わってしまう~」ということで、慌てて、3月1日から上野の東京都美術館で開催中の「ミロ展」に本日(7月2日)、行って来ました。平日の午前中でしたので、結構、空いておりました。

 Joan Miró(1893~1983年)は、私が子どもの頃は、「ホアン・ミロ」と表記されていましたが、そのうち、「ジョアン・ミロ」となり、今では「ジュアン・ミロ」と表記されています。まるで、「ギョーテとは、俺のことかとゲーテ言い」みたいな話です(笑)。

 これは、スペインのカタルーニャ地方のバルセロナ生まれのミロが、愛郷心がとても強く、「ホアン」というスペイン語読みではなく、「ジュアン」というカタルーニャ語読みで呼んでほしいと願ったからのようです。そう、そう、そうでしたね。カタルーニャは、中央政府のマドリードに反旗を翻して、独立宣言をしたりしましたよね。

 どうでしてなんでしょうか? と思って、歴史を調べてみたら、スペイン王国は1479年、アラゴン王国とカスティリヤ王国が合同して成立し、レコンキスタ(国土回復運動)を推進し、1492年にイスラムのグラナダ・ナスル朝を滅ぼして全国統一を果たしました。それまでは、群雄割拠だったわけです。カタルーニャ地方はアラゴン王国でしたが、遡る中世時代は、カロリング朝フランク王国(現フランス)の領土で、首都マドリードがあるカスティリヤ地方とは違う文化、歴史、言語を持っていたのです。

 ミロもフランスのパリなどで活動したぐらいですから、バルセロナ市民は、マドリードより、パリに目を向けているフシがあります。カタルーニャ出身の芸術家として、ほかに、パリで活躍したパブロ・ピカソやサルバドール・ダリもいます。

ジュアン・ミロ「ユネスコ」ポスター
ジュアン・ミロ「ユネスコ・人権」ポスター(1974年)

 言い方は変かもしれませんが、ミロに関しては、私は子どもの頃から親しんで来ました。また、語弊があるかもしれませんが、私も大好きな「星座シリーズ」などは、子どもでも書けそうで、子どもの目で見ると、特に想像力が湧き、異次元の世界に誘ってくれると思います。タイトルは付いていますが、その絵は、海底が描かれていると思っても良いし、宇宙が描かれていると思っても良いですし、自分勝手に空想の世界で遊べる、と言ってもいいかもしれません。

ミロ生涯の変遷が見られる大回顧展

 今回の展覧会では「初期から晩年まで、決定版大回顧展」と高らかに宣言していましたが、ミロの10代から80代までの作品が展示されていました。10代の頃の風景画には辛うじて印象派の影響が見られ、具象的です。ピカソが愛蔵していたというミロ20代の「自画像」は、キュビスムそのものです。そして、30代から以降は、いわゆるミロの代表作と言える抽象絵画になっていき、彼の生涯の変遷が見られます。

 40代以降になると、絵画だけでなく、焼き物や彫刻にも進出します。ピカソと同じです。

ジュアン・ミロ「逃避する少女」1967年
ジュアン・ミロ「逃避する少女」1967年

 もう一人、カタルーニャ出身の芸術家として、チェリストで指揮者のパブロ・カザルス(1876~1973年)がいて、ミロとも親しかったといいます。カザルスは13歳の時、すっかり忘れられていたバッハの「無伴奏チェロ組曲」の楽譜をバルセロナの古い楽器店で「再発見」し、世界中に広めた音楽家としても知られています。

 私も若い頃、大枚をはたいて、カザルスの「無伴奏チェロ組曲 全曲」のCD2枚組(東芝EMI)を購入して聴きましたが、正直言いまして、若い頃はロックなど派手なうるさい音楽ばかり聴いていたので、その深淵さに到達すら出来ず、退屈してしまいました。しかし、年を取るのも捨てたもんじゃありませんね。高齢になって改めてこのCDを聴くとじっくりと五臓六腑に染み渡ってくれるのです。

ジュアン・ミロ「太陽の前の人物」1968年
ジュアン・ミロ「太陽の前の人物」1968年

 今回、ミロの作品をゆっくり歩きながら拝見していると、嬉しいことに、このカザルス演奏のバッハ作曲「無伴奏チェロ組曲」第1番ト長調第1楽章が頭の中で反芻するように聴こえてきたのです。まさに、カタルーニャ出身のミロとカザルスのコラボレーションでした。

 蛇足ながら、ミロの年譜を見てみると、ミロ21歳の時に第1次世界大戦勃発、43歳の時にスペイン内戦、46歳で第2次世界大戦と、彼の生涯は20世紀の戦争期に当たっていたことが分かります。スペイン内戦時、ミロはフランコ独裁に反対する共和主義派でしたが挫折しました。作品にはこれらの戦争が投影されているはずですが、浅学菲才な私から見ると超越しているように見えました。

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