佐藤賢一著「ラ・ミッション 軍事顧問ブリュネ」(文春文庫、2017年12月10日初版)をやっと読み終えました。
何でこの本を読んだかと言いますと、自分のライフワークを日仏交流史の研究に絞ることにして、特に関係の深かった幕末の軍事顧問のジュール・ブリュネについて調べてみたかったからでした(大袈裟だなあ!)。ブリュネは、映画「ラストサムライ」のモデルになった人物としても知られています。
小説が読めなくなった
直木賞作家らしく手慣れた筆致で、大変読み易く書かれていましたが、私自身、ここ数十年、あまり小説は読まず、ノンフィクションか学術論文ばかり読んできたので、読むのに苦労してしまいました。文庫で500ページ近い長編です。昔なら3日で読めたでしょうが、2週間も掛かってしまいました(苦笑)。
小説ですから、「会話体」が中心になるせいかもしれません。同じことが、個人的に、漫画についても言えます。漫画は、私が中学生ぐらいまで熱心に読んでいましたが、高校生になってパッタリと読まなくなってしまいました。専ら、漱石、芥川、それに太宰、安吾、織田作、檀さんといった無頼派の小説ばかり読んでいました。そしたら、いつの間にか、漫画を読むのが、難しくなってしまったのです。絵と会話を同時に読む煩わしさで、二重苦に迫れてしまった感じになったのでした。文章一筋の方が読むのが楽なのです。
同じように、ノンフィクションに転向した40代頃からは、今度は小説が読みにくくなってしまいました。よく分かりませんが、会話から描写される表現から想像力が膨らまなくなったのか、所詮、事実とは違う絵空事か、作り手による誇大妄想ではないか、と割り切ってしまったせいかもしれません。とにかく、人間による創造よりも真実や歴史的事実の方を知りたかったからでした。
講釈師、見てきたような…
この本では、ブリュネの服装に関して、こう書かれています。
颯爽たる濃紺の軍服も、上襟、袖口、合わせに毛皮があしらわれ、胸のところに蛇腹紐の六段飾りが、袖のところに螺旋模様の刺繍が入れられた、いわゆる「ペリース服」だった。
さすが直木賞作家です。これほど事細かく微細に描写できるのは彼しか出来ない職人技でしょう。でも、どこか「講釈師、見てきたような」何とやらと、頭に過ぎってしまいます(笑)。
源義経=チンギス・ハン説
こういった雑念が湧くので、読むのに難儀しました。この本は、幕末の箱館戦争が大団円となる話で、榎本武揚も土方歳三も大鳥圭介も登場します。恐らく、90%近くは史実を反映して書かれていると思います。しかし、最後のオチは、まるで「源義経=チンギス・ハン説」みたいな大胆な「物語」で終わってしまい、さすがに唖然としてしまいました。
私はもう20年も昔になりますが、函館(箱館)に行って五稜郭を見学し、中の博物館に展示されたブリュネらフランスの軍事顧問団の写真も拝見しました。私は新選組のファンですから、勿論、「土方歳三終焉の地」(一本木関門跡)に訪れ、手を合わせて来ました。嗚呼、それなのに、この本では、土方は戦死したのではなく、生き延びてフランスに逃れていたとは…。
エンターテインメントとして作家の想像力に拍手喝采する読者がほとんどかもしれませんけど、私は呆然としてしまいました。
その一方で、私には歴史小説はとても書けないなあ、嘘は書けないなあ、と降参してしまいました。
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