【忘れ得ぬ言葉】第3回 「急に泣いたり笑ったり、普通じゃ出来ませんよ」 藤真利子さん

 藤真利子(1955〜)さんは本名藤原真理、直木賞作家藤原審爾の娘でインテリ女優として知られています。いわゆる「日本美人」という言い方も変ですが、目元がキリッとした容貌で私もファンでした。過去形にしてはいけませんね。今でもそうです(苦笑)。

 実はかなりの苦労人で、4歳の時に父親が愛人を作ったため、母と2人で家を出て暮らしていたといいます。その母親も晩年、脳梗塞を患い、11年間も介護に勤しんだため、彼女の仕事も激減したそうです。

 私が藤真利子さんにお会いしたのは、1991年頃、京都の太秦撮影所で、テレビの時代劇の収録の合間でした。その時、彼女は「女優業なんて簡単だと思っているでしょ?でも大変なんですよ。監督さんから急に、泣きたくもないのに泣け、と言われ、笑いたくもないのに笑え、と言われ、怒りたくもないのに、怒れ、と言われるんですよ。普通じゃ出来ませんよ。出来なければ、『それでもお前は女優か⁉︎』って言われるんですよ」と、私が何も質問もしていないのに、問わず語りに彼女の方から話し始めました。

 恐らく、こんなことを言ったことを彼女はもう覚えていないことでしょう。そして、勿論、私のことも覚えていないことでしょう。でも、私は、この言葉を30年以上経っても忘れられません。「芸能界とは派手で艶やかで、チラチラと演技するだけで有名になって、簡単に大金が入る」と偏見の塊だった私の心を、彼女から見透かされてしまったからだと思います。

 はい。芸能界は意外と地味な世界です。本当に大変な仕事です。何の保証もなく、「明日から来なくていい」と言われればそれでお仕舞いです。不確定要素の高い「人気」に縋って生きていかなければなりません。色んなスキャンダルや他人からのやっかみもあり、仕事を続けていくことだけでも奇跡に近いのです。

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