10月30日、新聞通信調査会が主催する講演会を聴講しました。講師は、産経新聞ソウル駐在客員論説委員、神田外語大客員教授の黒田勝弘氏で、演題は 「日韓60年とメディア―在韓日本人記者の妙味―」でした。
黒田氏は、御年84歳。40年以上も現役でソウル特派員を続ける世界的にも稀に見る「朝鮮半島ウォッチャー」です。産経新聞ということで、韓国からも、日本国内からも、「極右ジャーナリスト」のレッテルが貼られていますが(本人談)、お話を伺う限り、特に国粋主義的、反動的な印象はなく、至って誠実で、いまだに好奇心旺盛な記者とお見受けしました。
極右も極左も時代で変わる
そう言えば、黒田氏は京大経済学部出身で、1964年に、「極左ジャーナリスト」が多いと世間では言われている共同通信社に入社し、15年間在籍した後、産経新聞に移籍した人でした。まあ、極左も極右も、その時代、時代で見方は変わっていくものです。20世紀には、社会主義、共産主義が、平等で、平和で、計画経済による安定した政権を樹立するイデオロギーと見なされていた時代もありました。実際は、粛清の嵐が吹き荒れる自由のない権力ピラミッド構造の全体主義国家だったのに、実情を知らない英作家バーナード・ショー、仏作家アンドレ・ジッドや画家のピカソまで共産主義を賛美していましたから。
面白いし、飽きない
黒田氏は、40年以上も朝鮮半島ウォッチャーを続けている理由をよく聞かれるそうですが、「それは面白いからです。飽きないし、刺激があって、私の元気の素です。病気している暇がない」と言います。黒田氏が赴任中の40年間、韓国では軍事クーデターやら、慰安婦問題、徴用工問題など、そして北朝鮮では、拉致問題やミサイル発射など問題が山ほどあり、まずゆっくり休んでいる暇はありません。しかし、その一方では、大変仕事のし甲斐がある異国だと言えるのかもしれません。ただし、見方を変えると、これだけ長く、同じ仕事を続けさせてくれる会社は、新聞・メディア業界の中では産経しかありません。他に聞いたことがありません。
盛り上がらない日韓国交正常化60年
黒田氏の長い講演の中で、一つだけ特筆すると、今年は日韓国交正常化60年という節目の年なのに、両国で盛り上がっていない、という話でした。日本では「昭和100年」と「戦後80年」がメディアで取り上げられますが、韓国では、「植民地解放80年」の方が注目されているといいます。
それでも、日韓国交正常化60年の間に、韓国の経済成長は飛躍的な伸びを見せ、「先進国」の仲間入りを果たしました。それどころか、2024年の一人当たりの名目GDPランキングでは、日本は40位(3万2443ドル)なのに対して、韓国は34位(3万6239ドル)と既に、韓国は日本を追い越しているのです。韓流ドラマや映画、BTSやBlackpinkなどのKポップは今や世界市場を席巻し、日本以上です。
韓国の大財閥は日本がつくった?
黒田氏は、現在、韓国の経済を急成長させた財閥の日本による影響を述べていました。今や世界的な半導体メーカーとなったサムスンの創業者も2代目も3代目も、日本の大学(早稲田と慶應)に留学していたといいます。また、サムスンは一時期、日産自動車からの技術を取り入れて、自動車も生産販売したこともあったそうです。
現代(ヒュンデ)自動車は、三菱自動車の技術を取り入れ、新進自動車工業(現韓国GM)はトヨタから、起亜自動車はマツダから、大宇自動車はスズキから技術提供を受けました。さらに、石油精製や半導体など韓国4代財閥のSKグループは、日本統治下時代の織物会社「鮮京織物」が起源だといいます。知りませんでしたねえ(ただし、黒田氏の発言にはないことー例えば「新進自動車工業(現韓国GM)はトヨタから」などー、私が勝手に補足している部分があります)。
親しき仲にも礼儀あり
正直言いまして、私自身は、韓流ドラマもKポップも全く関心がないので、19世紀から、いや、古代の白村江の戦いから綿々と続く朝鮮(韓国)国内での過激な「反日派」と「親日派」との熾烈な政治的争いにはあまり関わり合いたくないなあと思っています。むしろ、古代から、韓国の方が日本に対して、大いに関心があるように見えます。北朝鮮は、いつも、何かあれば、「こっちを向いて」と言わんばかりに、日本海に向かってミサイルを打ち上げています。
でも、世界で一番近い隣人国なのですから、朝鮮半島に住む皆さんとは友好関係を持続させることが最重要だと思っています。ただし、「親しき仲にも礼儀あり」ですから、一定の距離とお互いへの理解と尊敬も必要だということは忘れてはならないと思っています。
 
  
  
  
  
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