読者が多い国際的なミステリー賞とは違って、地味な文学賞なのか、日本では殆ど報道されていなかったので、この渓流斎ブログを使って、「報道」させて頂くことにしました。
水林章・元東京外国語大学教授、上智大学名誉教授=写真=が先月末、アカデミー・フランセーズ(フランス学士院)のフランス語圏大賞を受賞したというニュースです。同大賞受賞は、1987年の前田陽一氏(比較文学・哲学)、2016年の松村剛氏(中世仏文献学)以来3人目です。それなのに、大手メディアは、何で報道しないんでしょうかねえ?
このニュースは、私の母校の主に卒業生が集う親睦会「仏友会」のグループメールで、幹事の中村日出男氏が知らせてくれました。中村氏と水林氏は同大学1970年入学の同期生ということでした。
フィガロ紙は難しい…
中村氏が添付してくださったのは、仏フィガロ紙6月27日付記事です。見出しは、「L’écrivain japonais Akira Mizubayashi couronné par l’Académie française」です。「日本人作家、水林章氏、アカデミー・フランセーズ主宰の賞を受賞」といった意味でしょうか。記事は、全て、フランス語で書かれていますので、私のような浅学菲才な劣等生では、意訳ということで御勘弁させて頂きます。まずは、下手な意訳の要らない皆さんのために原文を掲載します。
L’Académie française a couronné jeudi l’œuvre en français du romancier japonais Akira Mizubayashi en lui décernant le Grand Prix de la francophonie. Cet écrivain de 73 ans, qui parle et écrit un français impeccable alors qu’il vit et enseigne à Tokyo, a publié son premier livre en France en 2011, chez Gallimard, à qui il est fidèle depuis. Il fera partie des romanciers de la rentrée littéraire avec La Forêt de flammes et d’ombres, une fiction sur la fin de la Seconde Guerre mondiale au Japon et la musique, deux de ses thèmes favoris.
【意訳】
仏アカデミー・フランセーズは6月26日、日本の小説家水林章氏(73)の仏語作品に対してフランス語圏大賞を授与した。
水林氏は、東京在住で、東京の大学で教鞭を執りながら、非の打ち所がない完璧なフランス語を話し、また仏語でも執筆活動をし、2011年にフランスでは最初の著作をガリマール社から出版した。その後も同社から出版が続き、今年はバカンス明けに新作「炎と影の森」(仮題)が発売される予定で、注目を浴びそうだ。この小説は、第2次世界大戦末期の日本と音楽という作者が興味を持つ二つの題材に関係した作品となっている。(了)
ガリマール社というのは、フランスの大手出版社で、日本の講談社や新潮社、文藝春秋といった老舗文学出版社に当たります。一流のフランス人作家でさえ、ガリマール社から出版できる人はわずかです。
実は、私自身も、大先輩なのに水林氏のことを良く知らなかったので、みすず書房の略歴から少し引用させて頂きます。
水林章(みずばやし・あきら) 1951年山形県生まれ。東京外国語大学フランス語科卒業。1973年より仏モンペリエ大学に留学後、東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。1979年よりパリ高等師範学校ENS-Ulm留学。パリ第7大学テクストと資料の科学科博士課程修了。上智大学名誉教授。専攻は17-19世紀前半のフランス文学・思想。
著書に、「公衆の誕生、文学の出現——ルソー的経験と現代」(みすず書房 2003)、「モーツァルト《フィガロの結婚》読解——暗闇のなかの共和国」(同 2007)ほか。訳書に、J-M・アポストリデス「機械としての王」(同 1996)など。仏語の著作に、Une langue venue d’ailleurs, 2011, Mélodie, chronique d’une passion, 2013, Petit éloge de l’errance, 2014, Un amour de Mille-Ans, 2017, Âme brisée, 2019(以上、Éditions Gallimard)、Dans les eaux profondes(Arléa, 2018)がある。
また、仏フィガロ紙2024年12月16日付の記事「Akira Mizubayashi: «Je suis né en français à l’âge de 18 ans»」(「僕は18歳の時にフランス語の世界に生まれ変わった」=意訳)では、 2023年にガリマール社から出版された「Suite inoubliable 」が水林氏の仏語著作として8冊目だということが書かれていました。
このインタビュー記事によると、水林氏は高校生の時、パスカル研究で知られるフランス思想・哲学者の森有正(1911~76年、初代文部大臣森有礼の孫)の著作に熱中し、「大学ではモリエールやルソーの使ったフランス語を専攻にする」と心に誓ったそうです。
日本人が現地語で海外の賞を受賞する人は少ない
18歳から本格的にフランス語を学んだ水林氏ですが、フランス人以上の語彙と語学力で10冊近い本を仏語で著すとは頭が下がります。最近では、外国籍の人で芥川賞などを受賞する作家さんも増えましたが、日本人が現地語で海外の賞を受賞する人はまだ少ないでしょう。ベルリン在住でドイツ語でも執筆する芥川賞作家、多和田葉子さんぐらいですかね。
水林氏は、かなり控え目な人らしいですが、仏友会の講演会に是非とも講師としていらしてほしいなあ、と思いました。
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