フジテレビ問題は日本の文化の問題か?

 中部東海地方にお住まいのNさんから、メールを頂きまして、本件の話の後に、「ところで、フジテレビ問題についても快刀乱麻で、と念願する次第です」とありました。

 あれっ?N氏はどうしてそんなことを小生に仰るのでしょうか? もしかしたら、私がテレビ業界について詳しい人間だと思っているのかしら?

35年前の思い出

 はい。実は、もう大昔、35年も昔になりますが、私は通信社文化部のテレビ担当記者を務めたことがありますので、情報は古いのですが、ある程度、テレビ業界について熟知しているつもりです。東京・渋谷のNHKの11階に記者クラブ(全国紙とスポーツ紙が多く加盟するラジオ・テレビ記者会と、地方紙が多く加盟する東京放送記者会)があり、私は2年ほどラ・テ記者会の方に詰めていました。Nさんはそのことは御存知であるはずはないのですが、鋭い千里眼の持ち主です(笑)。

 今回の問題。ある一人の有名芸能人による女性トラブル(性暴力)から始まり、トヨタ、日本生命など80社近い大手広告主がフジテレビへのCM出稿を差し止める「事件」にまで発展しました。先日行われたフジテレビ社長会見で、参加者は記者クラブ員(活字メディア)のみで、動画撮影が禁止され、港浩一社長がまともに質問に答えず、説明責任を果たさなかったことが要因でした。

 女性トラブルとは、週刊文春の記事によると、フジテレビの編成部長のA氏が、都心の高級ホテルのレストランではなく、部屋で飲み会をセッティングして、女子アナとタレントが最後に2人きりになるよう予め示し合わせていたようでした。これだけ読むと、テレビ局の幹部は女衒か!となってしまいますよね?

 テレビ局の女子アナや女性社員は、頭が良く、若くて容姿端麗な人が多いので、有名芸能人や芸能事務所の大物社長、そしてスポンサーらへの接待要員として駆り出されることは、もう何十年も昔から慣例になっていることは業界の常識として知られていました。その一方で、同席するだけでなく、それ以上の問題が起きて表沙汰になる女性は氷山の一角で、他に何人もの女性がトラブルに巻き込まれていた可能性があります。

 民放の中で、日本テレビ(1952年創業)とTBS(ラジオは1951年、テレビは1955年)は、他局と比べて開局が少し古く、霞ケ関の官庁のような縦割り階級制度が見え隠れするテレビ局ですが、フジテレビ(1957年)は、映画会社の出資で少しだけ遅く放送開始しました。(日本教育テレビ→NET→テレビ朝日は1959年、東京12チャンネル→テレビ東京は1964年)

 フジは、1980年代から「面白くなければテレビではない」といった軽佻浮薄路線を掲げて、視聴率でトップを独占していました。ですから、フジテレビには、他局と比べれば、よく言えば自由闊達な、悪く言えば節操がない雰囲気(社風)がありました。35年前、当時のフジテレビ社長は日枝久さんで、毎月の社長会見でお会いしていましたが、その日枝氏は87歳になった現在も、フジサンケイグループの代表(フジテレビ取締役相談役)として君臨している事実には驚かされます。今のフジテレビの港社長はプロデューサーあがりのプロパーで、それほど権限がないのかもしれません。最終的には日枝氏が表に出て来て解決するしかないでしょう。

接待は日本の文化?

 ただし、「接待」に関しては、フジテレビだけではなく、テレビ局には付き物で、記者クラブの記者も当然、接待されました。私が記者クラブにいた1990年頃は、バブルが弾ける直前でかなり派手な接待が行われ、あまりにも過激だということで、「噂の真相」に書かれたこともありました。私は残念ながら(笑)、テレビ担当から外れていたので、その過激な接待には招待されませんでしたが、女性記者も参加していたので問題になりました。

 別に優等生面(づら)するつもりはありませんが、私がテレビ担当記者時代に受けた「接待」とは、飲食です。民放各局は1カ月に1度、定例の社長会見があり、大抵、昼食時に行われるのでカレーライスなどが出ました。NHKも会長との懇親会ともなると、銀座の高級寿司店の職人が来て接待してくれました(現在の社長会見は食事はなく、珈琲が出る程度のようです)。

 先程、「接待はテレビ局に付き物」と書きましたが、何も、テレビ局だけではありません。日本企業の全て、と言っても過言ではないでしょう。接待されるのは、政治家であったり、官僚だったり、マスコミだったり、クライアントだったりするわけです。贈り物と接待は日本の文化みたいなものです。いや、日本だけではなく、世界中どこの国でも蔓延っています。私自身も地方支局長時代に契約紙幹部を接待したことがあります。

 飲食接待はよく聞きましたが、性的接待となるとそれほど多くはないのではないでしょうか。テレビ局社員となれば、当時は噂すら聞くことはありませんでした。大物芸能人なら自分のお金でプロときれいに遊ぶものでしたから、今の芸能人は矮小化したのかもしれません。

蔦屋重三郎が人脈をつくれた理由

 今、NHK大河ドラマの影響で蔦屋重三郎が脚光を浴びていますが、蔦重が、なぜ、喜多川歌麿ら絵師、大田南畝らの狂歌師、山東京伝ら戯作者、平賀源内ら学者ら幅広い人脈を築き挙げたのか謎でした。でも、よくよく考えてみれば、蔦重は吉原出身の町人で、その世界に精通している人間だったので、かなりの接待によって人脈を広げていったのはないかと推測できます。

 ですから、フジテレビの問題は、日本の文化の問題ということになりますが、被害者にとってはたまったもんじゃないことでしょう。フジテレビも芸能人も明らかにやり過ぎです。

 電波事業である放送は、免許制度の許認可事業なので、監督官庁の総務省も黙っていられないはずです。

 フジテレビの問題について、快刀乱麻を断つことはできませんでしたが、大枠と根本的な話は御理解出来たことでしょう。Nさん、この辺で勘弁してくださいな。

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