加藤文元著「数学の世界史」を読み終わりました

加藤文元著「数学の世界史」(角川書店) 書評
加藤文元著「数学の世界史」(角川書店)

 加藤文元著「数学の世界史」(角川書店、2024年2月28日初版)を読了しました。正直、「やっと」を付け加えた方が正確かもしれません。中盤から複雑な数式や公理が出てきて、自分自身、どれだけ理解出来たのか心もとなくなったからでした。

アル=フワリズミー

 恥ずかしながら、著者の言うところの歴史的に「偉大な数学者」のほとんどを知りませんでした。例えば、中世アラビア代数学の最も重要な数学者と言われるアル=フワリズミー(الخوارزمي al-Khuwārizmī、生没年は諸説あり、780年あるいは800年の生まれ、845年あるいは850年の没とされる)。この人は天文学者でもありましたが、アラブ系ではなくペルシャ系の方でした。現在、AI(人工知能)などで、盛んに「アルゴリズム」(計算手順)という言葉が使われていますが、このアルゴリズムの語源が、このアル=フワリズミーさんだったというのです。彼の代表的著作に「ジャブルとムカーバラの書」(820年頃)があります。「ジャブル」とは「壊れているものを元に戻すこと」を意味し、現代の言葉で「移項」に当たるといいます。「ムカーバラ」は、「向かい合わせること」を意味し、現代風では「左辺と右辺で同類項を簡約すること」になるといいます。

 この最初の「ジャブル」にアラビア語の定冠詞「アル」を冠した「アル=ジャブル」が、今日の代数学「アルジェブラ」algebraの語源になったといいます。知りませんでしたね。でも、私は文系の人間ですから、むしろ、こういった話の方が興味が湧いてしまいます。

 この本については、既に本ブログ2024年5月2日付の記事で1回取り上げましたので、繰り返しになりますが、数学は、古代四大文明から生まれました。①メソポタミア文明から「古代バビロニア数学」(紀元前3500年頃、60進数を用いた計算、ピタゴラスの三つ組など)、②エジプト文明からは「古代エジプト数学」(紀元前3000年頃、二倍法によるかけ算・割り算など)、③インダス文明からは「古代インド数学」(紀元前1200年頃から、0の発見など)、そして④中国文明からは「古代中国数学」(紀元前1100年頃から、「九章算術」など。マテオ・リッチらが西洋数学を伝え、アヘン戦争後の植民地化で衰退した)です。

建部賢弘

 その後の数学史の中で、忘れてはならないのは、日本の和算です。関孝和は私でも知っているぐらい有名ですが、その弟子の建部賢弘(たけべ・かたひろ、1664~1739年)は知りませんでした。この人、色んな業績がありますが、円周率(3.141592…)で、小数点以下40桁目まで計算することに成功しているのです(主著は1722年刊行の「綴術算経」)。勿論、当時の世界トップレベルです。そんな凄い日本人がいたとは(知らなかったくせに)嬉しくなってしまいました。

世界の覇権国で数学が隆盛?

 数学は古代文明が発祥だった、ということから分かるように、その時代、その時代で、世界の覇権を握った文明国から偉大な数学者を輩出しています。ですから、話は飛びますが、「現代数学」というものは古代4大数学と古代ギリシャ数学(演繹的な論証数学)とアラビア数学(機械的手順による解析的数学)から融合・影響した近代西洋数学が覇権者として世界を制覇しているようなものです。管見ですが。

 本書では、非ユークリッド幾何学を発見したドイツのカール・フリードリッヒ・ガウス(1777~1855年)、アインシュタインの「一般相対性理論」の数学的基礎となった空間の幾何学を発見したドイツのベルンハルト・リーマン(1826~66年)、抽象的数学への移項理論を構築したフランスのエヴァリスト・ガロア(1811~32年)、新しい空間概念「トポス」を構築した「スキーム理論」のユダヤ系フランス人アレキサンダー・グロタンディーク(1928~2014年)らを取り上げています。

数学への興味が復活

 その現代数学の最先端の一つに、トポスを提唱したグロタンディークが「圈category」を用いた空間概念の理論がありますが、この圈論は、量子計算や機械学習のモデリングや、様々な科学分野やプログラミングへの応用で力を発揮しているようです。ここまで来ると、素人の私には全く付いていけません。この本は、車の運転とか楽器演奏の教則本みたいで、数学の問題を解いたり、定理を証明したりする実技を伴わないと意味がありませんが、少なくとも現代数学に至るまでの長い歴史について、初心者にも分かりやすく書かれているので好著だと思います。

 つまり、この本を読むと、数学に対する興味が復活して、「またいっちょう微分積分の問題でも解いてみるか」という気になります。

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