映画「オッペンハイマー」は★★★

映画「オッペンハイマー」のポスター 雑感
映画「オッペンハイマー」のポスター

 今年の米アカデミー賞で作品賞を含む7冠も獲得した話題の映画「オッペンハイマー」(クリストファー・ノーラン監督、脚本、製作)を観て来ました。昨年、米アカデミー賞で作品賞を含む7冠を獲得した「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」があまりにもつまらなくて、途中で、生まれて初めて映画館を退出したことをブログに書きましたが、もう私は、米アカデミー賞には期待していません。期待していないというより、信用していません。業界人が仲間内で好きにやっているだけで、観る価値があるとか、絶対的に面白い!と思わなくなったのです。

 ですから、このアカデミー賞7冠の「オッペンハイマー」も期待していませんでした。それでも、観ることにしたのは、昨年全米公開された映画なのに、「(残酷な)原爆の実態があまり描かれていないのでボイコットされるのではないか」といった憶測で、世界で唯一の被爆国である日本での公開が延期されて大きな話題になったからでした。

 まず、最初に書いておきたいことは、その憶測や批判は懸念に過ぎなかったのではないか、と思ったことです。確かに、具体的に広島や長崎の「キノコ雲」や被爆者たちの凄惨な場面は出て来ませんでしたが、幻想として、オッペンハイマーにはケロイドが見えたり、原爆で焼き焦げた遺体を踏んでしまったりする場面が出て来ました。

 英国出身のノーラン監督に直接聞かないと真意は分かりませんが、この映画で同監督は、特に反戦や反原爆を訴えたかったわけでもなく、原爆によって対日戦争を早く終わらせて、多くの米兵の生命を救った正当性を誇らしげに語りたかったわけではないように思われました。ただ単に、世界を破壊し、大量殺人をもたらす悪魔の兵器をつくってしまった科学者オッペンハイマーの内面の苦悩を描きたかったのではないかと思いました。

原爆の描き方に異論あるも観る価値あり

 でも、日本人として、被爆国民としての目からかもしれませんが、描き方はあまり納得できるものではありませんでした。それ以上に、人物関係があまりにも複雑に錯綜していて、誰が誰なのか分からなくなってしまったことを告白しておきます。台詞の中で、何度も「オッピー」なる人が登場し、古坂大魔王扮するピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」なのかと思っていたら(冗談ですけど)、後半の方で、やっと、オッペンハイマーの愛称だということに気が付きました(笑)。

 この映画を観ててあまり感銘しなかったのは、公聴会か諮問会か何か分かりませんが、やたらと委員会での査問のような場面が多かったからです。名作「アラバマ物語」を始め、欧米映画の不朽の名作にはやたらと裁判の場面が多いのですが、私自身はあまり好きじゃありませんね。ですから、この映画、3時間は長過ぎです。あまりにも多い公聴会の場面をカットすれば、もっとスッキリすると思いました。

 登場人物が誰が誰なのか分からなかった、と先に書きましたが、さすがにアインシュタインやハイゼルブルクやニールス・ボア、エドワード・テーラーといった著名物理学者たちはよく分かりました(苦笑)。また、科学者たち同士の世界的な交流や、1930年代の米国インテリ層での共産主義シンパや50年代の「赤狩り」、そして、ホワイトハウスを訪れたオッペンハイマーが帰った後、トルーマン大統領が「あんな弱虫、二度と連れて来るな」と言い放った有名な場面などは大変よく描かれていたと思います。

 ということで、ちょっと辛い点数を付けましたが、米アカデミー賞7冠にしては(苦笑)、観る価値があった、と太鼓判を押しておきます。

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