3月17日(日)、東京・出光美術館で開催中の生誕300年記念「池大雅」展(1200円)に行って参りました。昨日のブログをお読みになった方は直ぐ気が付かれたことでしょうが、私は、浜離宮恩賜庭園を初めて訪れた後、この美術館に立ち寄りました。地理感覚が不鮮明な方にご説明しますと、浜離宮恩賜庭園はJR新橋駅から徒歩13分ほど、出光美術館はJR有楽町駅から徒歩5分ほどです。新橋駅と有楽町駅間はわずか一駅ですから、両者は歩こうと思えば歩ける距離です。
幽谷山水に遊ぶ
池大雅(1723~76年)は円山応挙、伊藤若冲と並び称される江戸中期の京都の画人です。まず、知らない人はいないでしょう。今でも人気が高く、テレビの「何でも鑑定団」に出品されたりしますが、さすがに贋作も多い作家です。国宝や重要文化財に指定される巨匠ですから、本物なら数千万円単位になることでしょう。
代表作は南画(文人画)と呼ばれる幽谷山水の風景画が多いのですが、一度も中国大陸に行ったことがないのに、弟子の木村蒹葭堂(1736~1802年、文人画家、本草学者)から借りた漢籍から想像で描いたりしています。その雄大さに圧倒され、一瞬で虜になってしまうような作品ばかりです。私は、若い頃は、ゴッホ、ピカソ、マネ、モネ、さらにはパウル・クレーに至るまで西洋の近代美術ばかりにのめり込んでおりましたが、年を取ると日本に回帰するといいますか、雪舟や長谷川等伯の墨絵にしびれ、葛飾北斎、伊藤若冲の細密画に感嘆し、俵屋宗達、本阿弥光悦、尾形光琳の琳派にはあまりにも日本的な真実の美を発見し、東洲斎写楽の洒脱さには脱帽します。明治の人が恐れていたほど、日本の芸術は、決して欧米列強に劣ることはありません。今列挙した芸術家は、ダビンチやミケランジェロやラファエロらの巨匠に勝るとも劣らないと言っても良いでしょう。
90年ぶり公開作品も
展覧会(3月24日まで)は、池大雅生誕300年を記念し、東京では約13年ぶりの本格的な回顧展だと銘打っております。この中で、「餘杭幽勝図屏風」(よこうゆうしょうずびょうぶ)という山水画が展示されていましたが、これが何と昭和8年(1933年)以来実に「90年ぶりの公開」とあったので、思わず見入ってしまいました。館内にあった「出品リスト」を見ると、所蔵先が○○美術館ではなく、空欄になっていました。ということは、恐らく「個人蔵」ということなのでしょう。どこかの名家が代々受け継いでいる家宝なのでしょう。90年ぶりに公開して頂き、有り難く拝見させていただきました。
個人蔵の中で、所有者がはっきりしていた作品がありました。何と国宝の「十便十宜図」(与謝蕪村と共作)です。どなたかと思えば、ノーベル賞を受賞したあの文豪川端康成でした。古美術の目利きとしても知られた人で、関連随筆も書かれていたので「さも、ありなん」です。現在は「公益財団法人川端康成記念会』所蔵となっております。
残念なことは、館内での撮影が禁止されていたので、写真を掲載できないことです。表紙の写真は美術館出口にあった写真で、係員の人に許可を得て撮影しました。これは「十二カ月離合山水図屏風(部分)」(1769年頃、出光美術館蔵)で、重要文化財に指定されています。
何故、「いけの・たいが」なのか?
あと、蛇足ではありますが、池大雅を何故、「いけの・たいが」と「の」を入れるのか昔から気になっていました。円山応挙は「まるやま・おうきょ」と言い「まるやまの・おうきょ」とは言いません。伊藤若冲も「いとう・じゃくちゅう」で、「いとうの・じゃくちゅう」とは言いません。たかが「の」の話なのですが、実は、これが重要なのです。「の」が入る姓は、古代は天皇から下賜されたものだったからです。桓武天皇の子孫で臣籍降下した「平氏」や、清和天皇の子孫で臣籍降下した「源氏」がその典型です。平清盛は「たいらの・きよもり」と「の」が入り、「たいら・きよもり」とは言いません。源頼朝も同様に「みなもとの・よりとも」で「みなもと・よりとも」ではありません。他に、紀貫之(きの・つらゆき)の紀氏や、和気清麻呂(わけの・きよまろ)の和気氏など数多の例があります。
さて、池大雅です。英語のプレートでは「Ike Taiga」となっていて「の」がありませんでした。一方で、父親は、彼が4歳の時に亡くなった京都銀座の役人池野嘉左衛門だったということですから、「池」だけで「いけの」と自称したのかもしれません。本名は勤(きん)や無名(ありな)なので、池大雅は雅号でしょう。いずれにせよ、こんな細かい所を気にする人は、私の他に誰もいないと思います(笑)。
コメント
分からず・・・暫く読むのをご無沙汰しておりましたが、
今日からまた再開です。
”読むビタミン剤”として楽しみにしております。
末永く続けてください。
拝復 塩谷俊彦様
嬉しいコメント、どうも有り難う御座いました。
コメント掲載第1号ですね! おめでとう御座います!
最近、バテ気味ですが、もう少し頑張ります。
渓流斎高田謹之祐