🎬「国宝」は★★★

映画「国宝」 雑感
映画「国宝」

 今年の実写邦画の興行収入がトップとロングランが続いている「国宝」(李相日監督作品)を観に行って来ました。「話題作は、ちゃんとお金を払って劇場にまで足を運ばなければならない」というのが私の信念ですからね。

 と、偉そうなことを言っておきながら、私が通い詰めている映画館(シネマコンプレックス)の会員のポイントが溜まっていたので、運良く「タダ」で入場出来ました(笑)。映画館は、平日の午前だというのに、恐らく「レディース・デイ」か何かで、やたらと、素敵なおばちゃま連中が多くて、6~7割ぐらいの客席が埋まっていました。普段なら3~4割程度なんですけど。

原作は芥川賞作家吉田修一

 芥川賞作家吉田修一さんが3年間も、歌舞伎の黒衣を着て楽屋に入った経験を元にして血肉化させた渾身作が原作となっていますが、あくまでもフィクションであり、エンターテインメントとして大袈裟にドラマ仕立てにしていることが観て初めて分かりました。原作を読んでいないので、これまた偉そうなことは言えませんが、「こりゃ、あり得ない」「まさか」と途中で何度も呟いたことか…。

 というのも、私自身、かつて、5~6年ほど演劇記者として色んな角度から歌舞伎の「舞台裏」を見てきたり、役者さんに直接話を聞いてきたからです。そういう人間が、こういった「渾身作」なんか観てはいけませんね。フィクションとして楽しめばいいものを、「物語」には不可欠な「跡目争い」や「交通事故」や「病気」や「人間不信」やらが登場して、観ていて、「盛ってるなあ」とシラケてしまいました。

劇的な、あまりにも劇的な

 最初に、長崎の任侠一家の新年会の宴席に、興行で世話になっている上方歌舞伎の名門、花井半二郎(渡辺謙)が呼ばれ、親分の息子の見事な女方の踊りに半二郎は目を奪われますが、途中で、抗争中の組員が押し掛けて親分が殺されてしまいます。何か、取って付けたように、劇的ですねえ。結局、親分の息子喜久雄は、半二郎の「部屋子」として引き取られ、半二郎の実子俊介と芸と技を競い合い、舞台デビューを果たします。

 部屋子とは幹部俳優の身の回りを世話しながら、芸や所作を学ばさせてもらう見習いのことですが、腕が良ければ芸養子となって幹部になる役者もいます。任侠親分の息子喜久雄が、半二郎の部屋子になったのは15歳でしたが、ちょっと設定としても遅いんじゃないかな、と思いました。ちなみに、五代目坂東玉三郎が十四代目守田勘弥の部屋子になったのは6歳の時、六代目片岡愛之助が二代目片岡秀太郎の部屋子になったのは9歳の時でしたからね。

渋沢栄一と蔦屋重三郎に見えてしまう

 喜久雄と俊介の踊る「藤娘」などは絵に描いたような美の極致で、映像芸術でしか表現できない美しさを醸し出していましたが、喜久雄役は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」で渋沢栄一を演じた吉沢亮、俊介役は、同じく、目下放送中の大河ドラマ「べらぼう」で蔦屋重三郎を演じている横浜流星ですから、白粉を落とした普段着の格好をしていると、渋沢栄一と蔦重に見えてしまいます。また、吉沢亮は昨年末、泥酔して隣りの部屋に侵入した「事件」を起こしているので、まだ禊が終わっていない感じで、気になってしまいました。

 3時間近い上映時間も、何とかならないものか、と思いました。長過ぎて、近い人には不向きです。 

光る田中泯の演技

 「そんな文句ばかり言うなら、観るなよ」と怒られそうですが、やはり、話題作は劇場にまで足を運んでしまうんですよねえ。人間国宝小野川万菊役の田中泯は、どこか、人間国宝六代目中村歌右衛門を意識している感じで、名演技でしたね。それにしても、人間国宝さんの晩年が、大阪の長屋のアパートで、こけし一つだけに囲まれて、寝たきり状態という設定もどうかねえ…と思ってしまいました。

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