♪ テレビはねえ、スマホもねえ、レーザーディスクは何者だ?♫ Sさんのこと

スマホを操作する女性 Wikimedia 雑感
スマホを操作する女性 Wikimedia

 先日、「荻窪三庭園」にお導き頂いたSさんのことを書きます。今時のハイテク時代に仙人みたいな生活をしているからです。

 吉幾三のヒット曲「俺ら東京さ行ぐだ」(1984年)を文字れば、彼は「テレビはねえ、スマホもなえ、レーザーディスクは何者だ?」という生活を送っているのです。

 荻窪三庭園を巡る前に荻窪の高級フランス料理店で2人でランチをしましたが、フランス人と同じように2時間ぐらいおしゃべりをしました。色んな話をしますと、直ぐに彼の深い教養と学識の高さが分かりました。例えば、経済学に関しては、かなり豊富な知識と知見をお持ちになっておりました。

ジョン・メイナード・ケインズ

 特に詳しかったのが、彼が最も敬愛しているというジョン・メイナード・ケインズ(1883~1946年)です。代表作で非常に難解な「雇用・利子および貨幣の一般理論」(1936年)は当然のことながら、1919年、第一次世界大戦の終結の際のパリ講和会議の内幕とその失敗を論証した「平和の経済的帰結」まで読破しているのです。私は未読です。ケインズは、英大蔵省首席代表としてパリ会議に出席し、敗戦国ドイツに対して寛大な措置を主張しましたが、却下され、結局、莫大な賠償金を突きつけられたドイツに、その20年後、第2次世界大戦の火蓋を切らせる要因まで与えてしまうのです。

ピエロ・スラッファ

 Sさんは、ケインズの弟子やその周辺の学者まで詳しく、ケインズは、イタリア人の若き経済学者ピエロ・スラッファ(1898~1983年)の書いた1本の論文「イタリアにおける貨幣的インフレーション」(1920年)を読んだだけで、その才能を見抜いてケンブリッジ大学に招聘したことや、ウィーン出身の哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインらと交流(カフェテリア・グループ)したりしたことまで御存知でした。他に、ケインズ学派だと思われる私の全く知らない経済学者を4~5人挙げておりました。

 Sさんは、東京の私立大学の経済学博士課程単位取得満期退学という経歴の持ち主で、証券会社の調査部に勤務していたエコノミストでしたので、それぐらいお茶の子さいさいといったところなんでしょう。(ただし、個人的に株取引は一切しないそうです。そこが偉い!)

テレビはない

 恐らく、列挙した経済学者の主要作品は全て読んでいるはずです。というのも、私がNHKの「ブラタモリ」の話をしたところ、「ウチにテレビはないし、見ないので分かりません」と仰っていたからです。テレビを見なければ、かなりの読書家であることが推察されます。

スマホもない

 また、スマホもガラケーもお持ちではなく、インターネットもほとんどやらないそうです。パソコンも持っていないので、たまに奥さんのパソコンを借りて検索したり、メールをチェックしたりするぐらいです。

 私自身は、今どき、スマホなしの生活は考えられません。しかし、Sさんは、テレビもスマホもなくてもさほど困っていないようです。ですから、Sさんと連絡を取るには、御自宅の固定電話に掛けることになります。

 何よりも、私のように100万円もすると噂される腕時計をはめたりしません(笑)。街角の時計で十分なんだそうです。

 いやはや、Sさんからは何か人生で一番大切なことを教えられた気がしました。ネット動画に時間を盗まれてガハハと笑ったり、「犬笛」になったりするのは馬鹿げています。いずれにせよ、こんなブログを書いているようじゃ駄目ですよ。

一級品の読書のすすめ

 何と言っても、S先生の珠玉のアドバイスは「本は一級品を読んでください」でした。ネットにはくだらないフェイクや誤情報が溢れていますが、書籍も、読むに値しない眉唾物があります。Sさんは最近、エマニュエル・トッドの話題作「西洋の敗北」(文藝春秋)を読んだそうですが、「この本に出て来る参考文献は皆、確かなものです。全て読破したいぐらいです」とまで仰るのです。稀に見る凄い人です。

やはり仙人?

 S氏の趣味は古美術収集で、特に幕末から明治に掛けて活躍した柴田是真(1807〜91年)のファンなんだそうです。この絵師については、かつて美術記者だった私も知らなかったので脱帽です。

 S氏は目下、後期高齢者ながら、歩くのが速く、背筋も伸びて健康そのものです。健康の秘訣を聞いたところ、彼は「僕は薬なんか飲みません。毎日、玄米を食べてます」と言うではありませんか。やはり、S先生は仙人でした。

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