書評するのが難しいユヴァル・ノア・ハラリの最新作「ネクサス 情報の人類史」

ユヴァル・ノア・ハラリ著「ネクサス 情報の人類史」(上)人間のネットワーク 書評
ユヴァル・ノア・ハラリ著「ネクサス 情報の人類史」(上)人間のネットワーク

 世界的大ベストセラー「サピエンス全史」のユヴァル・ノア・ハラリの最新作「ネクサス 情報の人類史」(河出書房新社)の翻訳版(柴田裕之訳)が発売されたという新聞広告を見て、内容もタイトルもよく確かめずに発売日の3月8日に書店に走って買い求めました。私は、「サピエンス全史」「ホモ・デウス」「21 Lessons」…とハラリ氏の著作はほぼ全作読破し、「彼が書くことは間違いない」と思っていましたから、新作が出るのが楽しみだったのです。

読むのが難儀

 上下巻合わせて500ページ以上、原註釈80ページ弱という超大作(4400円もしましたよ!)で、実に「6年ぶりの書下ろし」ということでしたが、「あれっ?」何かおかしい…。なかなか、以前のようにページが進まないのです。以前なら1日に20ページ、50ページと寝るのが惜しいほど進んだというのに、今回は2~3ページ読んだだけで、ギブアップです。それほど難しいことは書かれていませんが、話が色々とあちらこちらに飛んでいて、「この人、一体、何を言いたいのか?」と余計な雑念ばかりが浮かんできてしまうのです。これは正直な感想です。

 10日ほどでやっと上巻を読み終えた時、やっと、ようやく、この本の面白さが分かって来ました。随分遅いですねえ(笑)。それはタイトルを見直して初めて分かったのです。「あ、そっか、この本は『情報の人類史』の話だったのかあ!」

情報伝達こそがすべて

 その情報の人類史の中には、「聖書」や「コーラン」やヒンズー教の聖典「ラーマーヤナ」が出てきたり、古代ギリシャの民主主義や近世帝国主義が出てきたり、悲惨な魔女狩りやユダヤ人に対する迫害「ポグロム」やナチスによるユダヤ人虐殺、全体主義国家ソ連のスターリンによる大粛清などといった負の遺産まで出てきたりします。これらに共通することは、宗教にせよ、思想にせよ、イデオロギーにせよ、そして、為政者による税の徴収や命令系統にせよ、情報伝達のネットワークが絡んでいるということです。そう著者は喝破しています。それらの手段は、粘土板の楔形文字に始まり、パピルス、印刷による書類、そしてIT革命によるデジタル機器に至るまでです。

自己修正メカニズム

 人類の歴史では多くの民族、超大国が勃興して文明を築いて他国を支配して勢力を拡大したりしましたが、最終的には「自己修正メカニズム」が機能しなければ行き詰って、20世紀末のソ連邦の卑近な例に見られるように、そういった大国も崩壊してしまうと著者は見抜いています。

 つまり、私はまだこの本の下巻の55ページまでしか読んでおりませんが、この本は為政者(独裁者と言ってもいい)にとっては都合の悪いことが書かれた危険な書だと言えます。私が独裁者でしたら、この本は発禁処分にしますね(苦笑)。それほど本質を突いたかなり重要なことが、動画ではなく、言葉として書かれています。

ポピュリストの隆盛

 例えば、本書は過去の歴史のことを中心に書かれていますが、著者のハラリ氏は、現代ネット社会のフェイクニュースの氾濫やポピュリストの隆盛に相当関心があるようです。著者によると、ポピュリストたちは、世界は弱肉強食のジャングルで、人間は権力だけで頭がいっぱいの生き物だと確信しているといいます。また、ポピュリストは、社会的関わりは全て権力闘争と見なし、裁判官は正義に関心がなく、自ら権力を奪取することばかり考え、新聞記者も事実に関心がなく、フェイクニュースを広めて人々を欺き、資金を提供する陰謀団から利益を得ていると考え、科学者も人民を犠牲にして私服を肥やそうとしていると考えているというのです。

悪徳裁判官や悪徳記者もいる世の中

 ハラリ氏は、こういったポピュリストによる権力闘争という考え方は、戦争や経済危機や災害やパンデミックなどについては理解がしやすいと認めますが、その一方で、賄賂を受け取る裁判官がいたり、一般大衆を意図的に欺くジャーナリストもいたりして、あらゆる機関に自己修正メカニズムが働かなければ、ポピュリストたちの考え方が正しい時もあったりする、と指摘するのです。そこが、世の中の、そして世界の難しいところです。(反ワクチン運動もその一連の流れでしょうが、私から言わせてもらえれば、真のジャーナリストは生命を懸けて真実だけを追究してフェイクニュースは書きませんよ!スキャンダルをネタに脅す総会屋まがいの記者や広告料を受け取る詐欺師まがいの宣伝マンらがいるだけです。)

 そのせいか、この本を書評するのは大変難しいとも言えます。私は無料で書いておりますが(笑)、プロの書評家は大変だろうなあと同情致します。(つづく)

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