いきなり青臭い論議になりますが、最近とみに評判が悪いジャーナリズムとは何か?ー再考したいと思います。一応、私自身もジャーナリストを自称していますからね。
自称ジャーナリストが濫立
そう、ジャーナリストは国家資格でも何でもありませんから、誰でも、今からでも、自分で名乗ることが出来ます。本来ですと、と言っても、何が「本来」なのか定義が必要ではありますが、真のジャーナリストは「社会の木鐸」であり、「坑道のカナリア」のように何か危険があれば多くの人に衆知するのが仕事だと見られています。その半面、スキャンダルを追う「イエロージャーナリズム」もあれば、広告を記事に見立てた「宣伝ジャーナリズム」もあります。最近では個人の不満解消のために他者を叩くだけの目的や、閲覧数(インプレッション)稼ぎ、投資詐欺、国際ロマンスの「SNSジャーナリズム」もあります。それより、最悪なものは、独裁主義国家が反体制派やジャーナリストを粛清して自分たちに都合の良い情報しか流さない「官製ジャーナリズム」があります。
生命の危険に晒されるジャーナリストたち
私の場合、当たり障りのないことばかりブログに書いていますから、生命の危険に晒されることはありませんけど、世界の独裁国家では、政権批判しただけで、投獄されたり拷問されたり、挙句の果てには暗殺されたりするジャーナリストが沢山います。先日、NHK-BSで放送された「世界のドキュメンタリー:記事を葬らせない 連帯するジャーナリストたち」(オランダVPRO、2024年制作)ではそんなジャーナリストが多く登場しておりました。私もこの番組を見てかなりの衝撃を受けました。受けおりの二番煎じの話ではありますが、こうして私のブログにしっかり記録を残して、多くの人に知ってもらいたい、という義務感に駆られました。このような堅い番組は、サッカーや野球の試合ほど世界中で見られることはないので、生命の危険に晒されているジャーナリストのことを知る人が少ないと思うからです。
シャルリー・エブド事件に遭遇したローラン・リシャール氏
フランスのテレビ局の報道記者だったローラン・リシャールLaurent Richardというジャーナリストが主人公です(表紙写真)。2017年9月にForbidden stories(禁じられた記事)と呼ばれる国際的なジャーナリストの組織をつくった人です。この組織は緩やかな連帯の非営利団体です。特に、ジャーナリストが拘束されて拷問を受けたり、暗殺されたりして、記事を書き続けることが困難に陥った時に、その「遺業」を継続して記事を発表しようというのがこの団体の目的です。参加者は、世界中の有志ジャーナリストです。これら「禁じられた記事」のほとんどが、独裁政権の指導者や政商らによる汚職や資金洗浄や弱い市民らに対する弾圧や公害汚染といった当局が隠したがる機密情報です。
勿論、こういった記事を公表すると、当局から逮捕されたりして生命の危険にも晒されます。それでも何故、敢えて危険を冒すのかといいますと、代表のローラン・リシャール氏が体験した経験がきっかけになっています。2015年1月7日に、パリで起きたシャルリー・エブド事件です。週刊風刺新聞『シャルリー・エブド』の本社にイスラム過激派のテロリストが乱入し、編集長、漫画家、警察官ら12人もが殺害された事件です。リシャ―ル氏は、このシャルリー・エブド本社と同じビルにオフィスがあり、彼が出勤した時は、テロリストが事件を起こして立ち去った2分後だったというのです。当然ながら、凄惨な事件現場を目の当たりにします。彼は、警察を呼んで、息も絶え絶えの編集者たちに「テロリストは去ったからもう大丈夫」と声を掛けることぐらいしか出来ず、無力感に襲われ、それがトラウマになってしまったといいます。
リシャ―ル氏は、その悲惨な経験から、自分も何かしなければならない、と心に誓って立ち上げたのが、Forbidden storiesだったというのです。しっかりとしたホームページもありました。
アゼルバイジャン・アリエフ大統領の汚職疑惑
番組では、独裁者といわれるアゼルバイジャンのアリエフ大統領の汚職を追っていた地元「アブザス・メディア」の記者ら4人が不当逮捕されて拘束されていく様子を映し出していました。アゼルバイジャンは石油や天然ガスなどの資源が豊富で、ロシアに代わって喉が手が出るほど天然資源が欲しいヨーロッパ諸国(EU)はアゼルバイジャンと協定を結びますが、その一部は資金洗浄されて、アリエフ一族の個人資金に渡っているのではないかといった疑惑をアブザス・メディアは追っていました。また、ダムがシアン化合物で汚染されているアゼルバイジャンのある村では、癌や肺疾患になる村人が増えているというのに、当局は何の対策も取りません。アリエフ大統領一族の関連企業がその村にある金鉱山で金の発掘を進めているからのようでした。発掘された金鉱石はスイスの二つの精錬所に運ばれ、その会社とは、アップルやマイクロソフトやヒューレットパッカード社などが取引していたことまでアブザス・メディアは掴んでいました。
拷問で廃人のように
まさに、ジャーナリストに対する「口封じ」です。番組では、アゼルバイジャン出身でオランダに亡命した人権活動家も登場していましたが、アゼルバイジャンで拘束されるとかなり酷い拷問に掛けられるといいます。その番組では、亡命した活動家夫婦が、精神安定剤と見られる大量の薬に囲まれ、碌に口もきけず、廃人のようになってしまった活動家夫人の姿も映し出されていました。
世界ではいまだに表現の自由がなく、ジャーナリストが殺害されたり、行方不明になったりする事件が絶えません。
カミュに似たリシャール氏
代表のローラン・リシャール氏は誰かの風貌に似ているなあ、と思ったら、作家で哲学者のアルベール・カミュを思い出しました。でもリシャ―ル氏は悲観的でした。彼は「ジャーナリストは人から好かれないんです。だから自分はジャーナリストだと言わないようにしています。もし言ったりしたら、『どうせエリートだろ?』とか『マスメディアの手先』『真実を伝えていない』などと言われるぐらいですからね」と溜息をついていました。
確かに、真相を暴く調査報道は、生命の危険があり、かなりの取材費が掛かるのに、地味で、報酬的にさほど見返りがあるわけではありません。閲覧数(インプレッション)稼ぎの扇情的なSNSジャーナリズムとは、全く対極の位置にあるわけです。
ジャーナリズムの力を信じて闘う
ただし、それでも、表現の自由のない独裁政権の汚職や縁故主義や社会の不正などと闘うには、ジャーナリズムしかありません。リシャ―ル氏もそのジャーナリズムの力だけはいまだに信じているようです。だから、こうして生命の危険に晒されながら、現役として活動しているのです。
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