悲劇でしかない 青木冨貴子著「ジョン・レノン 運命をたどる」を読んで

青木冨貴子著「ジョン・レノン 運命をたどる」 書評
青木冨貴子著「ジョン・レノン 運命をたどる」

 青木冨貴子著「ジョン・レノン 運命をたどる」(講談社)をとうとう読み終わってしまいました。副題に「ヒーローはなぜ撃たれたのか」とありますが、読者も著者の青木さんと一緒に、稀代の音楽家ジョン・レノンの足跡と、暗殺者マーク・デイヴィッド・チャップマンの精神的彷徨をたどった感じがしました。

 著者の「ジョン・レノンは何故撃たれなければならなかったのか?」といった疑問を解く作業は、1980年12月8日の事件から3年後に暗殺者チャップマンに面会を求めて手紙を書くことから始まり、途中で取材を中断した時期もありましたが、34年後にようやく刑務所内のチャップマンとの面会に漕ぎつけ、チャップマンから「君は誰より粘り強いリポーターだよ」と感心されます。

 この本が青木氏しか書けなかったことを当事者から証明されたようなものです。

明快な答えがない

 とはいっても、この本を読んでも明快な解答が出てくるわけではありません。著者もこの本の最後の方で「殺害の事実を澱みなく語り、ジョン・レノンの身に引き起こした苦痛については無関心でいられる彼(チャップマン)の精神が、いまなお私の理解の及ばない領域にあることが実感できる」と書いております。

 面会した医師から「慢性妄想型統合失調症」「自己愛性パーソナル障害」などと診断されたチャップマンですが、暗殺の動機については、彼の妻の証言も合わせて、かなり具体的に語っています。妻のグローリアさんによると、チャップマンは、図書館から借りてきたアントニー・フォーセット著「ワン・デイ・アット・ア・タイム」というジョンとヨーコの写真付きの大判の本を読んで「ジョン・レノンはこんな贅沢な暮らしをしていたのか」と憤慨していたというのです。

 チャップマンは、熱烈なファンだったジョン・レノンが質素な「労働者階級の英雄」ではなく、実際は、幾つもの農場やフロリダに大邸宅、ロングアイランドには別荘、それにヨットも所有する大富豪だった事実を知り、これは彼の音楽を通じて平和を信じようとした若者たちへの欺瞞で、「イマジン」の歌詞も絵空事だと失望したことがきっかけだったようなのです。想像が妄想に発展し、「計画的に」犯行に及んだのですが、やはり、普通の人の理解の範疇は超えています。

 この本で一番感銘を受けたのは、チャップマンとは実生活ではわずか18カ月間の結婚生活だった妻グローリア洋子さんが、離婚もせず、献身的に面会を続けているということです。グローリア洋子さんは、ハワイの日系米国人ですが、精神的に不安定なチャップマンから暴言を吐かれたりしながらも、そして、罪を犯してもなおも彼を愛し続けていることが凄いところです。グローリアさんからの手助けがなければ著者もこの本は書けなかったことでしょう。

 いずれにせよ、解決策も解答もないまま、この本を読了せざるを得なかったことは、ジョン・レノンの悲劇を一層際立たせ、どこか置いてきぼりにされてしまった感を拭い去れません。

 最後に私が45年前に収集した新聞記事のスクラップブックの写真を添付しておきます。

ジョン・レノン暗殺のスクラップブック keiryusai.net
ジョン・レノン暗殺のスクラップブック keiryusai.net

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