私は、男の厄年と呼ばれる42歳前後、ぎっくり腰になって歩けなくなったり、仕事が忙しいのに何ら感慨の沸かないアパシーになったり、いわゆる精神的危機に襲われたことがありました。
会社の同僚の勧めで、東京・赤坂見附にある診療所を訪れると、いわゆる全般性不安神経症(GAD=Generalized Anxiety Disorder)と診断されました。先生はとても信頼できる良い先生で、何やらご子息が「パニック障害」らしく、「息子と比べれば、高田さんの場合は風邪みたいなもんですよ」と言われました。別に突き放した言い方ではなく、むしろ、GADは、体質、気質みたいなものだから、「末長く付き合っていくしかありませんよ」とも言われました。ですから、薬も出さない最高の治療をしてくれました。
言われてみれば、GADは、中年から始まったわけではなく、中学生ぐらいからずっと続いてきた気がします。そして老齢になった現在でも、嫌になるくらい続いています。
何で本日、こんなことを書いたのかと言いますと、私が厄年でGADと診断された頃に当たる1999年、名古屋市で、主婦高羽(たかば)奈美子さん(当時32)が殺害された事件で、殺人容疑で逮捕された安福(やすふく)久美子容疑者(69)が、逮捕されるまでの約26年間、「毎日不安だった。事件の発生日ごろになると気持ちも落ち込んだ」と、愛知県警の事情聴取で応えたという記事を読んだからでした。
殺人という最大の罪を犯した容疑者も生身の人間だったことが分かりますが、私の不安神経症とは桁違いに症状が重かったのではないか、自分はまだマシなのかもしれない、と思ってしまったのです。それにしても、誤解を恐れず言いますが、罪悪感や自責の念や自己嫌悪、それにいつ逮捕されるか分からない恐怖感を超えて26年間もよく生き延びられたと思いました。
まだ、動機など事件の背景は分かっていませんが、容疑者と殺された奈美子さんの夫悟さん(69)とは高校の同級生で、同じソフトテニスクラブで、容疑者が悟さんに一方的に好意を寄せていたようでした。バレンタインデーにチョコレートを送ったり、高校を卒業しても、悟さんの大学のキャンパスに行ったりしたと報道されています。
何と言っても、何の理由もなく理不尽に殺害された妻の現場を犯人が逮捕されるまで検証できるように悟さんは、26年間もアパートを借り続け、その家賃の総額が2000万円を超えたといいますから、その執念には頭が下がる思いでした。
DNA鑑定で、現場に残った血痕が容疑者のものと一致しました。悟さんの執念が結果的に実を結びました。また、誤解を恐れずに言いますと、悟さんの苦悩と不安の日々は並大抵のものではなかったと想像されます。実年齢よりかなり高齢に見えてしまいました。

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