ついに内戦が勃発しました。
「掃除したか? トイレはまだか? 何?風呂掃除もしてないじゃないか」ー。家庭帝国の女帝フーチンは、使用人セレンスキーを朝の5時半に叩き起こして、暴言の数々を浴びせます。
「おい、今日こそ、ベランダの窓拭きをしろよな。月曜日から言ってるじゃないか。今日はもう水曜日じゃないか。料理もできないくせに。こっちは食材をちゃんと切り刻んで用意してやって、あとは煮るなり、焼くなりすればいいだけじゃないか。そんなで『料理しました』なんて言うもんじゃねえよ。ちゃんと買い物に行け! それにな、もう『銀座ランチ』とか言って外食できる身分じゃないんだからな。分かってるのか?」
何が気に入らないのか、この日の女帝フーチンはご機嫌斜めです。いや、この日も、なのかもしれません。いったん、キレると、2時間でも3時間でも不満と文句と他人の悪口を言い続けます。止まりません。決して、止まりません。
「この穀つぶしがあ〜」
使用人セレンスキーが45年間も勤めた会社を定年退職した後、女帝フーチンは「長い間ご苦労様でした」の一言を発するどころか、「どうせ何もしないで、自分の好き勝手なことをしているだけだろう。部屋に籠って、売れないブログを書いたりして、この穀つぶしがあ~」と叫びます。
使用人セレンスキーは、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んできましたが、ついに、堪忍袋の緒が切れました。「ちょっと言い過ぎじゃないのかな~」
「何が言い過ぎだ。甘い、甘い。これまで人に散々迷惑を掛けてきて、家では何もしてこなかったくせに、何が言い過ぎだ。まだ、まだ、足りないぐらいだ…」と言って、それから2時間半の「ロードショウ」を開始します。
勿論、セレンスキーは、ロードショウの話の内容は聞いていません。さんざん聞かされた今から30年も昔の話ですし、同じことを何度も聞かされれば諳んじることが出来るぐらいですから。それに、セレンスキーは、聞いているふりをして、実際、聞いていない術を身に付くことに成功しました。旅行で行った奥入瀬渓流を散策した日々を思い出したりしています。
だから、内戦とは言っても、爆弾が飛び交うわけではなく、言葉の暴力の応酬です。
今やセレンスキーは、社会的地位も肩書も何もなく、生産性のない単なる老人ですから、40年以上家庭に居座っている女帝に勝ち目は全くありません。内戦が勃発する度に、こうして部屋に籠って、ブログを書き続けているのです。生産性のない人間は迫害され、まるで生きる資格がないかのようです。
※これは、あくまでも、ある家庭の実情を取材した創作(オリジナル)です。実際の家庭とは一切関係がありません。
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