新聞通信調査会が主催するシンポジウムにオンラインながら、初めて参加しました(6月24日)。新聞通信調査会とは、戦前の国策通信社だった同盟通信社が戦後解散し、共同通信と時事通信、そして電通として再スタートしたことに伴い、いわゆる調査機関として財団法人として発足した団体です。主な事業は、このようなシンポジウム開催、報道写真展開催、世論調査、書籍発行、ボーン・上田記念国際記者賞の表彰などがあります。
私は通信社勤務時代は、意地の悪い上司によって、日の当たらない極寒の、人が嫌がる底辺の仕事ばかり任されておりましたので、このような華やかな組織とはあまり御縁がありませんでした。が、退職後にOB会に入会し、会報誌が送られ、このようなシンポジウムの定期開催を知り、申し込んだのでした。別に、新聞通信社に縁もゆかりもない方でも、ご興味があればシンポジウム等に参加出来ますから、是非とも、HPをご確認ください。
この日のテーマは「戦後80年とメディア〜分断する情報伝達の行方〜」で、作家の五木寛之氏による基調講演と、小林伸年時事通信解説委員のコーディネートによるパネルディスカッション(伊藤昌亮成蹊大学教授、国際ジャーナリスト堤未果氏、臼田信行中日新聞常務取締役)がありました。3時間半という長丁場でしたので、このブログで全てを再現することは不可能ですので、独断と偏見で、各氏の発言で印象に残った一言、二言だけ掲載することに致します。
今年93歳の五木寛之氏
最初に「新聞と私」をテーマに基調講演された五木寛之氏は1932年9月30日、故石原慎太郎氏と同年同月日生まれだそうで、今年93歳になるというので驚きました。私は30年ほど昔に、五木氏に取材させて頂いたことがあります(証拠写真は、この渓流斎ブログのプロフィルにアップしております)が、いまだに現役で、毎朝、新聞6紙をじっくり時間を掛けて読み、日刊ゲンダイのコラム連載は、同紙創刊以来51年間も休まずに続けておられるということで、頭が下がる思いでした。
プロ作家生活60年になる五木氏ですが、その前に、「業界紙」と差別された小さなミニコミ紙の新聞販売店での配送や、業界紙の編集から広告取りまでの「新聞づくり」に従事していた苦労話をされていました。よく知られているように五木氏は、父親の仕事の関係で敗戦を朝鮮半島で体験し、外地では「支配者」ながら、子どもの時は、玩具を持っていかなかったら一緒に遊んでくれない差別を受けたり、内地に戻れば「引き揚げ者」と差別されたことを語り、「こういった差別が作家という仕事を続けるのに大きな力になったかもしれない」といった趣旨の話をされていました。
失われた30年
パネルディスカッションに登壇された3氏の話は全員面白くて、本当に目から鱗が落ちる感じでした。伊藤成蹊大教授は「戦後80年と失われた30年」をテーマに話を進めておりましたが、30年前の1995年が節目の年で、この年から経済不況と格差社会で「負け組」が顕在化し、ちょうどこの年に現れたウィンドウズ95とインターネット元年といわれる変革期に、理系プログラマーがネット上で、新たに出現した弱者に寄り添って来なかったマスコミや文芸エリートたちへの反発を表明し、次第に反リベラルと新保守主義、反ジャーナリズムなどに繋がっていったのではないか、という指摘は、「鋭いなあ」と感心してしまいました。
日本は敗戦で、がむしゃらな経済成長と共に、資本主義のコマーシャリズムも隆盛になりますが、経済不況に陥ったその30年前から「反コーマシャリズムリズム」と、人気者嫌いからフジテレビ路線が否定されるようになったという話はまさに現在進行形で繋がっているので、これまた感心してしまいました。
ニュースはタダか?
臼田中日新聞常務は、新聞業界の凋落を部数を挙げて説明しておりました。それによると、1989年から2008年にかけて、全国の新聞の発行部数は4700万部もあったのに、現在(2024年)は、その半分近い2493万部にと落ち込んだといいます。新聞従業員も1980年に6万5000人だったのが、2024年は3万3000人と約半数です。
ネット上で、簡単に最新ニュースが読めることから、若者たちの間で「ニュースはタダ」という感覚になり、新聞部数低迷は、2007年からのスマホの誕生も大きかったのではないかといいます。
SNS炎上の理由
国際ジャーナリストの堤氏によると、世界のスマホの普及は40億台もあり、日本のFacebook利用者は2600万人、旧ツイッターは4500万人、インスタグラムは4800万人もいるそうです。SNSでは、「怒り」が一番早く、そして多く拡散し、「悪いのは財務省だ、ディープステートだ、中国だ」などと敵や悪者探しが始まり、炎上しやすいーという堤氏の指摘には納得しました。
また、SNSが炎上しやすい理由については、①匿名性なので、エスカレートしやすい②情報拡散のスピード③課金システムーを堤氏は挙げておりましたが、言動が過剰になれば、なるほど炎上しやすいことが分かります。それと同時に、今回の都知事選で石丸氏が擁立した候補者が全員落選したように「直ぐに飽きられる」面も強調しておりました。
ずっと画面を見続けさせるには?
そもそも、こういう「炎上商法」で一番儲けているのがFacebookなどプラットフォーマーと呼ばれる超大手IT企業なのです。彼らの根本的ビジネスモデルが、ユーザーにずっと画面を見続けさせることです。その最たるものが「いいね!」ボタンで、これは人の承認欲求を満たし、ユーザーはずっと画面を見続け、逆に否定されても、ユーザーは「何故だろう」とずっと画面を見続けるというのです。なるほど、か弱い人間の中毒性や依存症につけ込めば儲かるということなんですね。
ちなみに、この「いいね!」ボタンを開発した社員は、良心の呵責に耐えられず、退社したそうです。
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