これがお金を取って読ませる文章なのか? 蓮實重彦論

2025年6月13日付朝日新聞朝刊 雑感
2025年6月13日付朝日新聞朝刊

 

フリーライターとは原稿料タダの人?

 フリーライターというのは、どこの組織にも縛られず、自由気儘に物が書ける職業のことかと思っていましたら、どうやら「フリー(原稿料がタダ)」の書き手のことらしいですね。岩本太郎著「炎上!100円ライター始末記 マスコミ業界誌裏渡世」(出版人ライブラリ)で知りました。

 そういう私も、タダでこのブログを書いていますので、典型的なフリーライターなのでしょう。

プロの書き手が読者を軽視?

 その一方で、世間では、高額な原稿料を貰って活動されている方もいらっしゃいます。作家とか評論家とか学者とか呼ばれますが、芥川賞、直木賞を受賞したり、有名であれば有名であるほど高額です。才能があり、散々苦労して名を成したのですから、当然の報奨でしょう。それは誰も否定できません。

 こういったプロの書き手が読者に迎合することは間違っているとは思いますが、あまりにも、お金を払っている読者を軽視するとなれば別です。たとえ、それが権威者だろうが、黙っていられなくなります。例えば、本日6月13日(金)付朝日新聞朝刊に掲載された東京大学総長まで務めた映画評論家の蓮實重彦氏による長嶋茂雄さんの追悼文です。主見出しは「『ミスタープロ野球』何という冒瀆!」、2本目見出しは「瞳交し合った20歳 六大学時代からスター」、3本目見出しは「喪章だけ『3』なき試合 その惨めたらしさ」になっています。これらの見出しだけで内容が分かるかもしれません。

メディア批判は論外

 蓮實氏は何を怒っているのかと、思ったら、長嶋さんの尊称の「ミスタープロ野球」が気に入らないらしい。最初に「何という死者への冒瀆!…読売巨人軍に入団してプロとして歩み始める以前の長嶋氏は、すでに東京六大学リーグの選手時代から、神宮球場のスーパースターだった。どうして、マスメディアはその厳粛な事実を無視できるのか。」とあります。(当時、東大生だった蓮實氏は足繫く神宮球場に通い、長嶋さんと瞳を交わし合ったらしい。)

 あれっ?そうでしたかね? 長嶋茂雄が、当時、職業野球より人気があった東京六大学リーグの立教大学のスーパースターだったことを触れなかったマスメディアってありましたっけ?

 追悼文後半になりますと、蓮實氏御本人と長嶋さんとの濃密な関係を示唆するような文章が登場します。「背番号『3』が印字された長嶋茂雄というサイン入りの葡萄酒の瓶を眺めながら孤独に祝杯でも挙げようかと思ったが…」とあるからです。しかし、その後に「なぜそのような逸品が自宅に存在しているかは、いまは述べずにおく。」と続きます。あれっ?ここで、またガクンと来ます。「今は述べずにおく」と読者に言われても、蓮見氏は現在89歳です。今でなく、いつになるのでしょうか?

単なる自慢話だったとは

 まあ、ここまでは我慢出来ました。しかし、この後に「拙宅には、蓮實重彦様という宛名まで書かれた松井秀喜氏のサイン・ボールまで存在しているが、その由来についてもいまは書くまい」と来たもんだ。

 なあんだ。単なる自慢話だったのか…。こんな文章を読まされるなんて、お金を払って新聞を購読している読者として、腹が立ってきました。

炎上覚悟の教祖批判

 蓮實氏は天下の東大総長まで務めたオーソリチーです。蓮實教の教祖といっても良いかもしれず、多くの信者と弟子に囲まれています。弟子の中には有名な映画監督になった人も数多あり、彼の鑑識眼で、映画の作品にも多大な影響を与えます。そんな教祖を批判しようものなら、大変なことになり、炎上するかもしれません。

 「先生、渓流斎の野郎がまた先生のこと批判してますよ」

 「あ、そぉ。そんな無名のフリーライター、どうせ、ただで原稿を書いている貧乏人が何をほざこうが無視しなさい」

 そんな会話をしているかもしれません。

 太宰治が晩年、「如是我聞」と題した随筆の中で、「小説の神様」と呼ばれた権威ある大文豪、志賀直哉を批判していました。文壇から干されるかもしれず、大変、勇気がいったことだと思います。そんな「故事」を思い出して、フリーライターの私も勇気を振り絞ってこんな文章を書きました。

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