昨日は日産自動車の凋落を書いたので、本日は、朝日新聞の凋落について書いてみようと思います。
今さらながらの話ではありますが、若者の活字離れで、ここ10年、20年で新聞購読者数が激減しました。新聞社は頭脳集団ですから、あれやこれやと起死回生策を打ち出しておりますが、「焼け石に水」の状況で、部数は壊滅的に減少するばかりです。(今やマスコミは不動産業で糊口をしのいでおります。)
かつて1000万部と世界一を誇っていた読売新聞は目下、600万部の大台を切って598万部、天下の朝日新聞は20年前まで800万の部数を誇っていましたが、目下、その半数の400万部を切って357万部と惨憺たる有様です。毎日新聞、産経新聞ともなりますと、目も当てられません。
原因は明らかにインターネットの普及で情報量が格段に増えたからでしょう。若者だけでなく、驚くことに、インテリのTさんのような年配者まで新聞購読を取りやめてしまう人が増えています。もう一つは広告(主)離れです。スポンサーは、大挙してテレビではなく、ネット広告に移行してしまいました。今や、新聞に広告を打つのは、ヨレヨレの通販か、怪しげなサプリメントや「男が漲る」滋養強壮剤ばかりです。
30年前の時効の話 園山俊二さん
本日は、朝日新聞の凋落を取り上げます。本当はブログに書くつもりはありませんでしたが、30年以上昔の話なので、もう時効だと思うからです。
1993年1月20日、漫画家の園山俊二さんが急死されました(行年57歳)。「がんばれゴンベ」「はじめ人間ギャートルズ」「花の係長」など笑いとペーソスのある人気漫画家でした。私は当時、時事通信社の文化部記者で文藝を担当していました。朝10時頃、出社すると、「園山俊二さんが亡くなったらしい」という噂が流れていたので、早速、確認作業に取り掛かりました。当時はまだインターネットなどなく、アナログ作業です。会社にある興信録や文芸手帳や芸能紳士録などで探して、やっと園山俊二さんの住所と電話番号を見つけることが出来ました。
御自宅に電話すると、奥様らしき女性が出てきて、「あ、その件に関しましては、朝日新聞にすべて任せていますので、そちらにお問い合わせ願えませんでしょうか」と、か細い声で応えてくれました。そりゃあ、そうでしょう。御主人を失くされたばかりで気落ちし、ヤクザな文屋(ぶんや)に答える気力さえないことはよく分かります。
何で、朝日新聞なのかと言いますと、園山俊二さんは当時、朝日新聞の夕刊で「ペエスケ」という四コマ漫画を連載していたからです。私も愛読していました。
そこで、朝日新聞社の代表に電話して事情を説明すると、担当者に繋いでくれました。そこに、出てきたのは、声からして50歳ぐらいのベテランの男性。恐らく、クレームなどを受け付ける読者広報室あたりだったかもしれません。その男性は最初から面倒臭そうな声で、かなり居丈高でした。これまた、恐らく、かつては政治部か経済部のエリート記者で、何かのミスで上司から疎まれて左遷されて、読者広報室に回されたような感じでした。「俺はこんな所にいるような人間ではない!」といったエリート臭をプンプンにまき散らしていました。
私は、「園山俊二さんの自宅に電話しましたら、訃報に関しては、朝日新聞社に聞いてほしい、と言われたので御社に電話しました」と要件を縷々説明したところ、その男が言い放ったことに、椅子から引っ繰り返るほど唖然、呆然としてしてしまいました。その男はこう言ったのです。
「あ、それなら、今日の朝日新聞の夕刊に出ますから、それを見たらどうですか?」
私は耳を疑いました。私は夕刊の締め切り時間に間に合うように、こうして取材して訃報記事を書こうとしているのです。夕刊に出た時点で、もうそれはニュースではなくなってしまうのです。業界用語で、それは「後追い」と呼ばれます。
最初は冗談かと思いましたが、結構、本人は真面目なようでした。まさか、彼は時事通信社を知らないわけがないはずです。もしかして、時事通信社が記事を配信すると、地方紙や朝日新聞だけでなく、毎日も読売も日経も産経も東京もスポーツ紙も日刊ゲンダイも夕刊フジもラジオもテレビ局にも記事が流れるので、朝日の特ダネとして隠したかったのかしら?
ウチが書かなければニュースではない
もう30年以上昔の話だったので、その後どうなったのか、自分は何をしたのかほとんど覚えていないのです(笑)。頭の中が真っ白になりましたから。ただ、はっきり覚えているのは、その男が、その後、言い放ったカウンターパンチです。
「ウチ(朝日新聞)が書かなければニュースになりませんからね」
何という傲岸不遜な!!確かに、朝日新聞は世界に名立たるクオリティーペーパーで、信頼性は抜群です。一面のコラム「天声人語」なんぞは、よく大学入試問題にも取り上げられ、受験生必須の新聞です。私も、自分の書いた記事が朝日新聞に載れば、正直、誇らしく、嬉しく思いました。
しかし、ですよ。そこまで言われてしまえば興醒めし、「貴方は何様ですか?」と言いたくなります。
高まる新聞の役割
あれから30年余。件の読者広報室と思われる男性はもうお亡くなりになったかもしれませんが、こんな時代になるとは予想さえ出来なかったことでしょう。朝日新聞の影響力は激減しました。広告主にも見放され、彼は、朝日新聞に、東京スポーツのような(失礼!)高麗人参サプリの広告が掲載されるなんて想像も出来なかったのでは? もし、今、彼が「ウチ(朝日新聞)が書かなければニュースになりませんからね」なんて言おうものなら、大笑いされることでしょう。
でも、私は、これを笑い話にはしたくありません。SNSで、誹謗中傷と偽・誤情報と詐欺勧誘が溢れている昨今、むしろ、オールドメディアと言われようが、新聞の役割と重要性が高まっていると思うからです。
コメント