桜は若葉に限る

見沼桜回廊 keiryusai.net 雑感
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 【創作】※旧友T君の要望に応えて

 日本人にとって、桜といえば、桜花のことを指す。だから、花弁が散ったら、人々は見向きもしない。

 何かおかしくないか? どこかおかしくないか?

 西行も坂口安吾も間違っていた。

  桜の花は、その季節になると、咲く前に、いつ咲くか、いつ咲くのか、とソワソワして、落ち着いて厠にも行けぬ。

 桜が満開になれば、なればで、いつまで持つのか、あと何日持つのか、と毎日ハラハラし通しで気が休まる暇もない。

 そして、ついに桜吹雪になって、桜が散る頃、まるで同期の桜が散るかのように、心深く暗澹たる思いが蔓延り、憂鬱になる。

 桜花は、何と罪作りなのか!

 その点、桜樹の若葉の新緑は、瑞々しく、目に青葉が染み入るようだ。

 嗚呼、それなのに、それなのに。人は、桜の若葉には見向きもしない。あれだけ桜花の下に茣蓙を敷いて、飲めや歌えやの大騒ぎをしていたというのに。

 何かおかしくないか? どこかおかしくないか?

 西行も坂口安吾も間違っていた。

 桜の真骨頂は、花ではない。あの白とも赤ともピンクともつかぬ淡色のぼんやり感は、頭に張り巡らされた蜘蛛の巣のようだ。

 それに比べて、若葉のあの緑の瑞々しい美しさは何とも言えぬ。迷いがない。潔さがある。

何よりも、安心して眺めていられる。

 桜といえば、花より若葉。吾人は古今東西、史上初めて、桜の花より若葉を推す。

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