誰にも言ってはいけない 「AIの不都合な真実」

ChatGPTのロゴ(Wikimedia Commons) 雑感
ChatGPTのロゴ(Wikimedia Commons)

 先日、放送されたNHK-BS世界のドキュメンタリー「AIの不都合な真実」(フランス、2025年)は、頭の後ろからガツンと殴られたような衝撃を受けました。

ChatGPTの進歩の裏には…

 今、我々が最も身近なAI(人工知能)の一つが、ChatGPTかもしれません。2年前は、文章表現がおかしく、誤字脱字もあり、ほとんど使い物にならないくらい大したことがなかったのですが、日進月歩の急激な進歩で、今ではわずか数秒で色んな問題をサッと答えてくれるようになりました。表現力も格段の進歩です。その背後に何があったのか、私自身、何も知りませんでした。

 このChatGPTを手掛けるオープンAI社のサム・アルトマンCEOや、オープンAIに対抗してxAI社を設立したイーロン・マスク氏らは、口を揃えて、AIによる天国のようなバラ色の未来世界ばかり強調しております。私も思わずその手に乗るところでした。しかし、その隠れた背後には、「データワーカー」と呼ばれる最低賃金で働く、グローバルサウスの貧しい人々の汗と涙の労苦やPTSD(心的外傷後ストレス障害)については、全く知らされることもなく、見向きもされて来ませんでした。このドキュメンタリーでは、そんな虐げられた彼らに焦点を当てて、不条理を浮き彫りにしておりました。本当に衝撃的でした。

最終チェックは生身の人間

 一番衝撃的だったのが、アフリカのケニアでデータワーカーとして働いていた幼い娘さんを抱えた若い女性の例です。データワークというのは、AIは、一種の「機械」ですから、最後はどうしても人間の目による校正(違和感のない表現や誤字脱字などの訂正)や有害な画像・動画の選別などが必要とされるのです。人間らしい滑らかな発声や文章表現などのチェックは、縁の下で生身の人間が担っていたのです。

「世界一幸福な国」にもデータワーカー

 文章や音声等のチェックは、どちらかと言えば、まだ生易しいものです。そういった生易しい作業は最貧国ではなく、いわゆる先進国にも回されることが多いようです。驚いたことに、番組の最初に出てきたのが、このケースです。何と、2018年から7年連続「世界一幸福な国」に選出されている北欧フィンランドでした。その国にあるハーメンリンナ女子刑務所に、文章表現チェックのデータワークの仕事が回されていたのです。割と易しいですが、非常に単調なので、受刑者は気分の落ち込みを感じているようでしたが。

精神的拷問でPTSDに

 少し前段が長くなってしまいましたが、一番衝撃を受けたケニアの女性の話でした。データワークの中でも最悪の仕事です。最初は、可愛らしい猫ちゃんの画像を見せられますが、次第に、殺人や暴行や暴力の場面ばかり見せつけられ、それらを「仕分け」する作業を強いられるのです。彼女は、これによって、不眠となり、不安で外出さえ出来なくなり、3年でこの仕事をやめますが、今でもPTSDと悪夢に悩まされているというのです。

 グローバルサウスの最貧国では、仕事がなく、データワーカーにならざるを得ない人が多くいるといいます。このような精神的拷問を受ける酷い仕事で賃金が低くても、彼らはやらざるを得ないのです。しかも、賃金が幾らなのか口外しないことと組合に参加しないことなどを条件に最初に契約で約束されます。まさに、搾取そのものです。

誰もが見て見ぬふり

 アルトマンCEOもイーロン・マスク氏も、こういった酷い実態を知ってか知らぬか、見て見ぬふりです。同様に、ChatGPTを利用している多くの人は、こういった酷い実態を知る人は少ないことでしょう。

 私自身は、この番組を見た後の4~5日間、ずっと、AIプラットフォーム企業に対する憤りと不条理を感じてきました。しかし、冷静になってフッと考えてみたら、こういった構造は今に始まったことではないということに気が付きました。日本では、江戸時代、代官が農民を搾取していたし、明治になって、酷い環境の中で休みなく長時間働かされる「女工哀史」の時代もありました。オートメーション化される前の自動車工場労働者も惨憺たるものでした。現在、グローバル社会となり、簡易ファッション産業の高成長の裏には劣悪な環境で低賃金で働くバングラデシュ等の工員に支えられています。そのことを知っていても知らぬふりをして、先進国の人間は、この世の春を謳歌しているわけです。

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