1月10日(金)、久し振りに「小江戸」川越に行って来ました。5~6年ぶりぐらいです。前回は川越城見物に行ったと思います。今回は観光ではなく、映画を観に行きました。ミニシアターしか上映しない映画通が観るシネマです。いつでも混雑する東京・渋谷の映画館には行きたくなかったので、他にどこで上映しているのか調べたら、「川越スカラ座」が出てきたのでした。行ってみたら、まさに、地方の、大変失礼ながら、うらぶれた場末の映画館でした。いや、こんな言い方はいけませんね。昭和の香りがする歴史を感じる趣きのある映画館でした。数年前に、私もよく通った東京・有楽町のスカラ座は閉館してしまいましたが、名前が同じなので姉妹館かどうか知りませんが、少しだけ似ていました。
川越駅から歩40分
JR川越駅から歩いて、15分ぐらいかな、と思ったら、なかなか着きません。結局、40分ぐらい掛かりました。平日だというのに外国人観光客だらけで、まるで京都みたいでした。蔵造りの街並みがある表通りを避けて、人が少ない裏道ばかり選んで通りました。
映画はフィンランドの「キノ・ライカ」という映画です。私淑する一橋大学名誉教授の加藤哲郎氏が、今年の年賀状メールで「映画『キノ・ライカ』で新年のリフレッシュを!」と、異様なほど強く勧めていたからでした。
巨匠アキ・カウリスマキ
首都ヘルシンキから北北西へ車で1時間の湖畔にある人口9000人のカルッキラという小さな町に、同町出身の映画監督アキ・カウリスマキと作家で詩人のミカ・ラッティらが2021年10月8日に開いた映画館をつくるまでのドキュメンタリー映画です。アキ・カウリスマキ(1957〜)は、2002年、「過去のない男」で第55回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、2017年に「希望のかなた」が第67回ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞した巨匠です。私は名前だけは知っていましたが、彼の作品を1本も観たことがありませんでした。それが、後述しますが、後で尾を引いてしまいました。
音楽が日本語のフィンランド映画
結論を先に書けば、よく分からない不思議な映画でした。初めて観るフィンランド映画でしたが、最初に出てきたのがフランス語で、この後、フィンランド語と思しき言葉と英語などが聞こえましたが、映画音楽が、フィンランド人と結婚して移住した篠原敏武さんという人が日本語で歌っているのです。本編では「雪の降る町を」まで唄って、それを2人でチェスをしながら聴いたフィンランド人が「日本人とフィンランド人は似ているところがあるんだよ」と応じた場面も出て来ました。私はフィンランド語は全く分かりませんが、アキ・カウリスマキという名前も日本語みたいです(笑)。
この篠原武敏さんは、どうやら、この映画を推薦してくださった加藤哲郎氏の50年来の友人で、加藤氏は1985年以降、欧州滞在・調査のたびにカルッキラの町を訪れ、滞在してきたといいます。そうでしたか。それなら異様に思い入れがあるはずです。
それに対して、私といえば、フィンランドに一度も行ったことがありませんし、巨匠アキ・カウリスマキの映画を1本も観ていないとあっては、このドキュメンタリーを観ても、沢山の登場人物が出てきて、カウリスマキの映画の話をしても、内容が分かりません。「顔を洗って出直してこい」といった感じになってしまいました。
小津映画のようなアングル
でも、カウリスマキの熱烈なファンの人が観れば、たまらないことでしょうね。登場人物はカウリスマキ作品に出た俳優さんやエキストラが多く占めていたからです。作品のロケ地の多くが、カルッキラだったようなので、「聖地巡礼」にもなります。
この映画の監督はクロアチア出身のヴェリコ・ヴィダクという人ですが、撮影の仕方がユニークです。ほとんどがインタビュー・シーンなのですが、正面からアップで撮った映像がほとんどなく、登場人物は、少し離れて横向きになって2~3人で会話して写っている場面が多いのです。
アキ・カウリスマキは日本の小津安二郎らの影響を受けた、と事あるごとに語っていますが、ヴィダク監督も小津らしいシャシンの撮り方です。カウリスマキ自身も登場しますが、ヴィダク監督にそう撮るように指示したのかもしれない、と思わせます。
町の映画館よ、永遠なれ
点数が低いのは、私の勉強不足のせいで、もし私がカウリスマキ作品を1本でも観ていたら評価が上がっていたと思います。81分の映画で、「あれっ?これで終わり?」と思わせましたが、ハリウッド映画とは違って、余韻が残る映画でした。ちなみに、川越スカラ座の観客を数えたら、平日の午後ということもあって私も入れて17人でした。しかも、高齢者ばかり。「キノ・ライカ」を観終わって、こういう町の映画館は残ってほしいものだと切に思いました。
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