1年半前に図書館で予約していた磯田道史著「徳川家康 弱者の戦略」(文春新書、2023年2月20日初版)が、長い順番待ちの末、やっと手に入りました。3日間程で読了しましたが、2023年に放送されたNHK大河ドラマ「どうする家康」の種本と言いますか、はっきり言って「便乗商法」本になっておりました。ドラマを見ていなければ、新発見の連続で、圧倒されたかもしれませんが、ドラマを見てしまったり、家康関連本や月刊「歴史人」(ABCアーク)の家康特集などをその間に私はかなり読んでしまったので、残念ながら、驚きも半減といった感じでした。
詰まるところ、徳川家康はなるべくして容易く「天下人」になれたわけではなく、武田信玄が病死したり、織田信長が暗殺されたり、豊臣秀吉が磐石な政権継承を出来ないまま、道半ばで病死したりしたお蔭で、運にも恵まれて、まさに「弱者の戦略」で天下人を勝ち取った経緯がこの本には書かれています。
もし、大河ドラマ「どうする家康」をご覧になった方がこの本を読んで、「ドラマと同じことが書かれている」と思う人がいたとすれば、「どうする家康」の脚本を書いた古沢良太さんの手腕が発揮されていたということになります。それだけ、古沢氏は「史実」に忠実にドラマを描いていたということになるわけです。特に、ドラマの若き頃の家康は弱々しく、優柔不断な面があり、最初から天下人を狙っていたわけではなく、窮地に陥ると「どうする!?」と悩む場面が頻出していましたが、それらも歴史的事実だったということです。
自己顕示欲の強い人
著者の磯田氏は、テレビの歴史番組に多く出演したり、自著が原作になった映画にもエキストラとして出演されたりしていましたから、随分、自己顕示欲の強い方だなあとお見受けします。いや、別に批判しているわけではありません。何かの事情で自己存在を世間に訴えたい人が世の中に多くいらっしゃいますから。
ただ、今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」は、紫式部を主人公にした平安時代の物語ですから、世間の皆様は、もうすっかり家康は忘れて、紫式部の「源氏物語」や藤原道長の「御堂関白日記」や藤原実資の「小右記」などに注目しております。そのせいで、今やこの本を手にする人は残念ながら少ないかもしれません。ブームが過ぎれば、世間は冷たいものです。
ところで、著者は若い学者さん故なのか、日本史なのに、本書ではやたらとカタカナ語を羅列するところが気になりました。例えば、
…信長型は求心力が強く、急速に成長可能ですが、ブラック化しやすく、メンバーが「信長疲れ」を起こします。…もっともサステイナブルだったのが家康の棲み分け路線だったといえます。
磯田道史著「徳川家康 弱者の戦略」76ページ
といった具合です。恐らく、若い人向きに歴史を分かりやすく描きたいという著者の目論見を具現化したものだと思われます。ジャーナリスティックな用語が頻出するので、有難いことに毎日、新聞を精読されていることが伺われます。
そういった意味で、著者は、堅い重箱の隅を楊枝でほじくるような歴史学をエンターテインメントに近い教養として大衆に開放したということになり、その功績は非常に大きいと思います。国からの交付金、つまり税金で運営されている研究機関(日文研)で働く方なので、研究成果を国民に還元することは、当たり前の話なのかもしれませんが。
私が、彼の著作を買わずに図書館で済ましてしまったのは、ベストセラーになることが分かっていたからでしたが、彼の仕事ぶりは否が応でも目に入って来ますから、読売新聞の連載なども含め、今後も注目していくつもりです。
以前から随分お若い学者さんだと思い込んでおりましたが、著者略歴を見たら、1970年生まれでした。ということは今年54歳ですか…。既に大御所さまの年齢でしたね。大変失礼しました!
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