第59回諜報研究会「国内外からの日本人の交際交流を阻む2つの事例を考察する」

第59回諜報研究会のご案内 雑感
第59回諜報研究会のご案内

 6月15日(土)、東京・早稲田大学で開催された第59回諜報研究会にオンラインではなく現地参加して来ました。共通テーマは、「国内外からの日本人の交際交流を阻む2つの事例を考察する」で、中国とシリアでそれぞれ長年拘束監禁されて解放されたお二人の想像を絶する実体験と苦労話を聴くことが出来ました。

 以下はあくまでも本ブログ主宰者による主観的な印象記ですので、御意見があれば、記事の最下層にあるコメント欄にコメントして頂ければ幸甚です。

安田純平氏「『事実よりも信じる心が大事』な日本? シリア人質事件と旅券発給拒否から見る日本の現在?」

 話は前後しますが、まず、二番目に登壇された安田純平氏(ジャーナリスト)から取り上げます。演題は「『事実よりも信じる心が大事』な日本? シリア人質事件と旅券発給拒否から見る日本の現在?」で、シリアで3年4カ月間も拘束された安田氏が解放されて、2018年に帰国して以降、日本政府がいまだにパスポートを発給しないことに異議申し立てをするといった内容でした。

第59回諜報研究会 安田純平氏「『事実よりも信じる心が大事』な日本」
第59回諜報研究会 安田純平氏「『事実よりも信じる心が大事』な日本」

 実は、私自身、安田氏の講演を拝聴するのは初めてではなく2度目でした。前回は同じ諜報研究会(第30回)で、2019年12月7日(早稲田大学)のことで5年ぶりでした。5年前の安田氏は帰国してまだ1年しか経っていなかったせいか、まだ興奮醒めやらぬといった感じで、かなり尖った人だなあという印象がありました。このことは、《渓流斎日乗》2019年12月9日の記事「3年4カ月の拘束から解放された戦場ジャーナリスト安田純平氏」に書いておりますので、ご参照ください。

 しかし、今回は安田氏も50代を迎えたせいなのか、とても落ち着いて、感情を顕わにすることなく、理路整然と話しておられました。相変わらず頭脳明晰で記憶力抜群で、10年近い昔の惨憺たる実体験をメモも見ずに淡々と話されていたので非常に説得力がありました。細かい点を挙げるとキリがないので、最も説得力があったことだけ書きますと、それは、もし、日本人がテロリストと思われる組織に誘拐されて身代金を要求された場合、大使館=外務省=日本政府は一切、身代金を払わなければ、交渉さえもしないという疑惑でした。

 このことは、ネットでも見ることが出来ますが、外務省は「海外における脅迫・誘拐対策 Q&A」というパンフレットを発行しており、その中で「 海外での日本人誘拐事件について政府(外務省)はどのように対応していますか。」という質問に対して、はっきりとこう書かれているのです。

海外で誘拐事件が発生した場合、第一義的には、被害者の関係者(家族、企業)と事件発生国の政府が中心となり対応することとなります。しかし、事件が外国で起きていることもあり、被害者の関係者のみで対応することが困難な場合もありますので、外務省は、事件解決の責任と権限を有する当該国の主権を尊重しつつ、邦人保護の立場から人質の安全救出のため最大限の努力を行います。また、日本政府に対して要求があった場合には、政府は不法な手段を用いて不法な要求を行う犯人に対して譲歩すべきではないとの考え方にたち、更なる犯罪の助長を防ぎ、日本人・日本権益が将来にわたって標的となることを防ぐ観点からも、国際的に確立した「ノー・コンセッション(譲歩はしない)の原則」に基づいて対処することにしています。

外務省「海外における脅迫・誘拐対策 Q&A」

 難しい書き方をしていますが、安田純平氏によれば、この最後の「ノー・コンセッション(譲歩はしない)」ということから、自分自身の人質事件も含めて、日本政府は「不法な要求を行う犯人に対して」一切、身代金を払うはずがなく、交渉すらしないという意味だというのです。ですから、「安田純平は身代金を払って解放された」という話は全くデマであり、安田氏に対してパスポートを発給しないのは不当だと主張しているのです(現在、裁判で控訴中だといいます)。

 外務省側から言わせれば、「内戦状態で危険だということで渡航禁止区域に指定しているシリアにわざわざ行く方がおかしい」ということになりますが、安田氏は、ネット上でシリア政府側と反政府側が全く正反対の主義主張をしているため、ジャーナリストして真相を知るためにはネットでは分からず、現地に行かざるを得なかったというわけです。

 戦場ジャーナリストを看板に掲げている以上、安田氏にとってパスポート発給は死活問題です。私も同じ業界の人間ですから、政府は安田氏に一刻も早く発給するべきたという側に立ちます。

鈴木英司氏「中国の人権状況と習近平による一強支配―中国拘束2279日から見える今の中国―」

 話は前後しましたが、最初に登壇されたのは、元日中青年交流協会理事長の鈴木英司氏で、演題は「中国の人権状況と習近平による一強支配―中国拘束2279日から見える今の中国―」でした。先述の安田純平氏がシリアで3年4カ月間、拘束されましたが、鈴木氏の場合は、中国で6年間も、全くの冤罪で、スパイ容疑で投獄されたというのですから、はっきり言って、身の毛もよだつ恐怖を感じました。

第59回諜報研究会 鈴木英司氏「中国の人権状況と習近平による一強支配」
第59回諜報研究会 鈴木英司氏「中国の人権状況と習近平による一強支配」

 鈴木氏が、北京空港で、中国国内でスパイ活動などを取り締まる安全部によって突然、拘束されたのは2016年7月のことでした。理由も分からず監禁され、何度も取り調べを受けて分かってきたことは、彼の容疑は、在日中国大使館の公使参事官も務めたことがある外交官の湯本淵(たん・べんやん)氏と2013年12月に北京で会食した際に、鈴木氏が湯氏に、北朝鮮の故金日成主席の娘婿だった金成沢氏が粛清されたのか聞いたところ、湯氏は「私は知りません」と答えたという一件がありました(恐らく監視カメラと盗聴による)。これが、北朝鮮問題を話題にすることすらタブーとする中国国内のスパイ法に引っ掛かったらしいことが分かったというのです。金成沢氏の処刑は既に日本では報道されており、特段の秘密事項ではありませんでしたが、中国では報道されていなかったようです。これで、鈴木氏は、事実無根ながら日本の公安調査庁から派遣されたスパイと断定され、約6年間も収監されました。この辺りの事情について、鈴木氏は、22年10月に刑期を終えて日本に帰国後、「中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録」(毎日新聞出版)を出版しておりますので、御興味のある方はご参照ください。 

 私自身は、この鈴木氏の冤罪とも言うべき拘束事件については、新聞の記事で知って、読んだだけで、深い事情については全く知りませんでした。今回鈴木氏の講演を聴いて、少し分かりました。一番不可解で引っ掛かったことは、日中青年交流協会理事長まで務めて日本と中国の架け橋になって尽力していた鈴木氏が、何故スパイ容疑に嵌められたのか? という素朴な疑問です。何しろ、鈴木氏は中学生の時に魯迅の「故郷」を読んで感動し、「将来、日中友好の仕事をしよう」と心に決めた筋金入りの「親中派」です。反中の人間が不当逮捕されるのは分かりますが、寄りによって何故、彼を拘束したのか分からなかったからです。

 鈴木氏の話から見えてきたことは、中国国内で、習近平国家主席の一強独裁体制をつくるための政略が大きく絡んでいたようなのです。中国は共産党独裁のピラミッド政権で、そのトップは政治局常務委員と呼ばれるわずか7人です。その最高指導者になれるのは、かつては①上海派(江沢民ら)②太子党(毛沢東の孫らかつての指導者の二世、三世)③共青団=中国共産主義青年団(胡錦濤、李克強ら)が占めていました。それが、習近平国家主席が憲法を改正してまで三選を目指すに当たり、ライバルを排除する戦法に出たというのです。習近平氏の父習仲勲氏は、文化大革命で失脚させられましたが、副首相も務めましたから太子党です。上海派の勢いは衰えていましたから、最大のライバルは共青団です。2022年10月の中国共産党第20回全国代表会で、習近平氏は国家主席三選を勝ち取りますが、その際に自分の息の掛かった人物だけを「トップ7」に選出し、共青団の李克強首相を排除しました。このやり方に怒りの声を挙げたのが共青団出身の胡錦涛前主席で、会議の途中で強制退去された姿がテレビで写されたことは記憶に新しいほどです。 

 ところで、スパイ容疑で6年間も投獄された鈴木英司氏が理事長を務めた日中青年交流協会は、この共青団との繋がりが深く、協会自体も共青団国際部の肝入りで設立されたといいます。そのせいで、鈴木氏が習近平体制当局によって目の敵にされたということは十分考えられることでした。鈴木氏は内部闘争の犠牲になったと考えられます。そう考えれば、何故、無実の親中派の日本人が貶められたのかその理由が理解できます。

 中国は国内に監視カメラが溢れ、日本以上の監視社会と言われています。国際郵便も開封されて検閲され、盗聴や尾行は当たり前で、鈴木氏もその覚えがあったといいます。それに輪を掛けて、現政権は、密告を奨励して報奨金まで出すといいますから、言論の自由もありません。

自由な日本の方が良いに決まってる

 私が書いた「身の毛もよだつ恐怖」とは、そんな監視・密告社会も指します。諜報研究会の会場である早稲田大学まで私は都電を利用しますが、その車内は中国人で溢れていました。隣席の小生を蹴とばしても謝らない行儀が良い小さな子どもを連れた中国人もいましたが、彼らは恐らく日本永住を希望しているのでしょう。日本語さえ学ぼうとせず、傍若無人にも中国語で大声で話しておりましたが、そりゃあ、自由な日本の方が良いに決まっています。中国の人口は14億人。これだけの人数を纏めるには一党独裁の強権体制でしか治らないのでしょう。一方、これからの日本列島は、少子高齢化で日本人が減少し、中国人が益々増えていくことでしょう。言論の自由と行動の自由と不動産取得の自由がありますからね。

 先日、厚生労働省が発表した「合計特殊出生率」(1人の女性が生涯で生む子どもの数)が過去最低の「1・20」まで下がり、東京都は何と「0・99」と1を割り込みました。日本が人口を保つには「2・07」が必要ですから、このままで行くと日本人はいなくなってしまいますね。

追記:太陽の有り難さ

  中国で6年間投獄された鈴木英司氏(元日中青年交流協会理事長)と、シリアで3年4カ月拘束された安田純平氏(ジャーナリスト)のお二人の共通した体験談の一つが「太陽が見られなかった」という話がありました。お二人とも長期間の拘留中、カーテンを締め切った部屋に監禁され、ほとんど外に出られず、太陽の光を浴びることが出来たのは特別に許された1回程度で、それも10分か15分程度だったといいます。

 そっかー、太陽の光を浴びることが出来るのは当たり前だと思っていたのですが、そうではなかったんですね。これから有り難く太陽を拝まさせていただきます。

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