ラテン語さん著「世界はラテン語でできている」

「世界はラテン語でできている」本の表紙 書評
「世界はラテン語でできている」

 ラテン語さん著「世界はラテン語でできている」(SB新書)を読了しました。後半になると、ラテン語と日本との関わりが出てきますので、読了すると、日本人でもラテン語が随分身近に感じられるようになりました。

ラテン語は死語ではない

 結論として、著者に言わせれば、「ラテン語は決して死語ではない」ということなのでしょう。実際、欧米では、ラテン語は古典として学校の授業で習っています。また、YouTubeなどで結構、ラテン語講座があったり、日本国内でも街中にラテン語を見かけたりします。ラテン語は古代ローマの公用語だったとはいえ、今でも生きているということになります。

 著者が例に挙げていたのは、大学のキャンパスです。東京の慶應義塾三田キャンパスの東門には”HOMO NEC ULLUS CUIQUAM ORAEPOSITUS NEC SUBDITUS CREATUR”とあり、これは創設者福沢諭吉の「学問のすすめ」の中の有名な「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という意味です。一方、早稲田大学では、中央図書館の入り口に”QUAE SIT SAPIENTIA DISCE LEGENDO” とありますが、これは「知恵とは何か、読んで学べ」という意味で、「カトーの言行録」からの引用だそうです。

 京都の四条通にある生活雑貨店「イノブン四条本店」の外壁には”FESTINA LENTE”(「ゆっくり急げ」「急がば回れ」の意味)など四つのラテン語の標語が刻まれ、東京・羽田空港第2ターミナルには”PAX INTRANTIBUS SALUS EXEUNTIBUS”と書かれていますが、これは「訪れる者たちに平安あれ。去りゆく者たちに安全あれ」という意味だということです。ちゃんと相応しいラテン語が掲示されていたわけです。

-iaは地名

 また、ラテン語の-ia という接尾辞は、よく地名に用いられます。Mongolia(モンゴル)、 India(インド)、 Slovenia(スロベニア)などがあります。この-ia を使って日本で名付けられた例として、東京・有楽町駅前の商業施設「有楽町イトシア」YURAKUCHO ITOCia(「愛しい」に -iaを合わせた)や、埼玉県川口市駅前の川口総合文化センター「リリア」(川口市の花テッポウユリLily と-ia を合せた)などを挙げています。会社の近くなので、「有楽町イトシア」の「証拠写真」を撮ってきました(笑)。

有楽町駅前の商業施設「有楽町イトシア」
有楽町イトシア

 このほか、ラテン語から派生した学術用語として、星座(おひつじ座のAriesは、ラテン語の「牡の羊」を意味する ariesから)や化学元素(炭素記号Cは、ラテン語のcarboneum から由来し、この語からcarbohydrate「炭水化物」や carbon dioxide「二酸化炭素」などに派生)などの例も取り上げています。私は全く知らなかったのですが、数学で使う円の半径の r は、ラテン語のradius(「車輪のスポーク」の意味)から取られたそうです。また、返信メールの Re:とは、英語のreply(返事)の省略語かと思っておりましたが、ラテン語の in re(~に関して)のことだというのです。へ~ですよ。

Kawaii はかわいいではない?

 もうキリがないのですが、一番面白かった例が、白亜紀の哺乳類に命名されたSasayamamylos Kawaii です。兵庫県篠山市(現丹波篠山市)で化石が見つかり、大きさはネズミぐらいで発達した臼歯を持っていたため、Sasayamaは「篠山」、mylosは古典ギリシャ語の「臼」となりました。その後ろの Kawaii は、「可愛い」かと思ったら、さにあらず。兵庫県立人と自然の博物館の名誉館長で、霊長類学者の河合雅夫氏にちなんで付けられたというのです。ラテン語では、人名で特に母音で終わる男性名には名前の後に i を付ける命名法が一般的だからだそうです。

ブルータスよ、お前もか!

 古代ローマの男性名は、 Brutus(ブルートゥス)のように、-us で終わることが多いのですが、名前の語形が変化することもこの本で教えてもらいました。まず、Brutus(ブルートゥス)は主格で「ブルートゥスは」という意味。これが、「ブルートゥスの」という意味にするには Bruti と変形します。さっきの Kawaii は、「河合の」ということだったんですね。もう一つ、ラテン語には、呼格という呼び掛けの際に用いられる語形もあり、Brutus は、 Bruteになります。「ブルートゥスよ!」という意味になります。

 シェークスピアの「ジュリアス・シーザー」で有名になった「ブルータスよ、お前もか!」というシーザー(カエサル)の言葉がありますが、これは、ラテン語で、” Et tu, Brute?” になります。名前なのに、Brutus は、 Bruteに変形するのです。私は若い頃、雑誌「ブルータス」(マガジンハウス)を愛読していて、確か、表紙にこの” Et tu, Brute?” が掲載されていたと思います。当時は、Bruteは Brutusの間違いなのかなあ、と思っていましたが、呼格として語形が変形していたわけですね。いやあ、勉強になりました。

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