赤瀬川原平氏の「老人力」

冷蔵庫 雑感
冷蔵庫

 最近、冷蔵庫を開けてから、「あれっ?何を出そうとしたんだっけ?」と思ってしまう事案が出てきました。老化現象なのでしょう。本人は認めたくないのですが、最近、人の名前が出て来なくなったばかりでなく、あれだけさんざん苦労して覚えた歴史的事件も英単語も固有名詞も直ぐ出て来なくなりしました。また、困ったことに、人から言われたことも直ぐ忘れてしまいます。

 私は、綾小路きみまろのファンで、よく彼の漫談を聞いておりました。「あれから40年!」です。シリーズの中で、やはり、冷蔵庫を開けてから、自分が何を取り出そうとしたのか分からなくなったお婆さんが登場します。それどころか、立ち上がって、これから自分が何処に行って、何をしようとしたのか忘れてしまうお婆さんの話まで登場します。「そんなわけないだろう。大袈裟な」と以前は思っていたのですが、年を重ねるとそれらは冗談でもなく、誇張でもないことを実感するようになりました。

 それでも、あまり悲観ばかりしてはいられません。副作用がない「読むクスリ」として御紹介したいのが、やはり、赤瀬川原平著「老人力」(筑摩書房、1998年9月初版)です。物忘れや老化現象をマイナスに捉えずに、逆転の発想で「かなり老人力がついてきた」とプラス志向に転換していくという立派な「哲学思想」です。当時はベストセラーになり、「流行語」にもなったほどです。

赤瀬川原平氏にお会いした1カ月後…

 その著者の赤瀬川原平(1937~2014年、77歳没)さんとは一度インタビューでお会いしたことがあります。テレビで見るのと同じように、何処かとぼけた感じで、冗談ともつかない本音を話されていましたが、根は非常に真面目という印象を持ちました。何しろ、前衛芸術の美術家として世に出たのに、尾辻克彦の筆名で芥川賞まで受賞してしまうのですから。まあ、天才です。

 そのインタビューは1999年の10月頃だったと思います。それから1カ月ほど経った11月、東京都内のホテルである文学賞の授賞式パーティーがあり、そこで、偶然、赤瀬川さんをお見かけしました。赤瀬川氏は、立食会場の場で、フィレステーキを召し上がっていましたが、構わず、側に近寄ってご挨拶をしました。

 「あ~、どうも、先日は、インタビュー有り難う御座いました。大変、お忙しい中、お時間を割いて頂きまして、本当に有り難う御座いました」

 「ああ、いえいえ」

 そんな言葉が返って来るものとばかり思っておりましたが、赤瀬川氏はキョトンとした表情で、フォークを持ったままです。そして、思いも寄らぬこんな言葉が返って来ました。

 「え~と。。。どちら様でしたっけ?」

 カックーンです(古いギャグ)。

 でも、さすが「老人力」を生み出した巨匠のことであります。本人自ら、率先垂範して、老人力を発揮されていたのかもしれません。赤瀬川氏、当時62歳。今の私より随分若いので、感慨深いものがあります。

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